祭りは変化を続ける。SBNRを通してみる精神と文化の柔軟性——加藤優子/渡邉賢一

「SBNR/地域の価値を再定義する祭り」
11月11日(水) 11:00-12:00
@SHIBUYA QWS

<登壇>
株式会社オマツリジャパン 代表取締役
加藤優子

株式会社XPJP 代表取締役 バリュー・デザイナー
内閣府 価値デザイン委員
クールジャパン戦略有識者委員
渡邉賢一

モデレーター:
一般財団法人 渋谷区観光協会 代表理事
SIW プロデューサー
金山淳吾

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SBNRという言葉。近頃耳にするようになった、あるいはこのセッションで初めて聞いた、という方も多いのではないでしょうか。Spiritual But Not Religious。無宗教型スピリチュアル層とも呼ばれる人たちを指す言葉です。

近年、祭りとその周辺文化を映像化することに取り組んでいる渡邉さんは、日本文化の根底にある自然観を指し「日本文化の90%は目に見えず、説明がないとよくわからないもの」と指摘します。「日本人の生活価値観の柱は“With Nature”。八百万のものに神が宿り、神と自然をなかば同義に捉えています。“まつり”という言葉には、奉り/祀り/祭り/政りといった漢字があてられるが、いずれの“まつり”も根本には“自然への感謝”があります」。そしてこうした日本特有の自然観に、世界のSBNR層が注目しているのだといいます。
「たとえば日本人にとってお遍路は“巡礼”や“供養”ですが、SBNR層にとっては“Nature Walking”としてとらえられるんです」。そしてそこに、祭りのさらなる可能性があると渡邉さんは考えています。

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オマツリジャパンの加藤さんは一方、「いままで言語化されてなかっただけで、日本人にもけっこうSBNRの人がいるんじゃないか。自分は無宗教だと思っていてもお祭りには行くしクリスマスもやるし」と指摘、これには皆さんもきっと頷かれることでしょう。
オマツリジャパンは“お祭り専門のサポート会社”。現在全国に年間約30万件ものお祭りがあるそうですが、その文化の火を絶やさないために日々活動しています。
そんな加藤さんもまた、これからの祭りの可能性に期待を寄せています。このセッションでは特に地方創生における可能性についての議論が進められました。
全国的に有名なねぶた祭りの経済波及効果は約238億円。かたや、全国には資金不足や人手不足などに悩まされている祭りがたくさんあります。それぞれの地域の祭りを活性化し、地域の価値自体をも高めていくにはどうしたらいいか。そのヒントは、祭りや日本文化のSBNR層への浸透に代表されるような、時代に合わせた「捉え方の変化」にあるようです。

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「これまで社会の変化にあわせてお祭りも変化してきました。大昔には五穀豊穣や疫病退散などを願い祈るものが多かったけれど、明治以降には人賑わしの意味合いも出て、祭りは「する」ものから「みせる」もの、「みる」ものへ変わってきたそうです」と加藤さん。
お祭りといえば伝統行事。そこに変化を求めることには躊躇してしまいがちかもしれません。しかし加藤さんは、日本人は祭りに対して実は“なんでもあり”な感性を持っていて、たとえばスーパーでいちごの大売り出しをすれば「いちご祭り」と気軽に言ってしまえるような自由さがあることを指摘。また渡邉さんは「インドネシアの最大のお祭りはジャカルタ盆踊りなんです」と続けます。日本企業が現地工場で働く日本人従業員のために開催したのがはじまりで、現在では、ムスリムの方が多いジャカルタでたくさんの現地の方々が着物を着て盆踊りをするのだそう。つまり「祭りのフォーマットを輸出さえできる」ということ。
祭りというものは、時代の流れとともに変化したり、あらたな土地に根付いたりと、想像以上に柔軟な特性をもった文化なのかもしれません。
「音楽フェスでも15年も続けばその地域の人にとってなくてはならないものになるものです」(加藤さん)

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コロナ禍によって特に大きく社会が変化している現在、祭りはどう変わってきているのでしょうか。
渡邉さんは、日本の祭りの多くが、神事、奉納、直会、の3要素で構成されていることを踏まえて、
「コロナ禍になっても神事の部分だけは残ったが、密を避けるために、それを多くの民衆と共有する奉納や直会の要素が消えてしまった」と指摘します。
地域の人たちの交流や一体感を育み、コミュニティとしての意味合いも持つ祭りという場。加藤さんによれば今年はオンラインで開催された祭りも多くあったとのことでしたが、ふたりはそんな変化にも希望を見出しています。

「祭りのオンライン化によって私もいろんな土地のお祭りに参加できましたし、海外の人も気軽に参加できます。オンラインでもチャット欄で参加者同士の一体感を味わうことができました」(加藤さん)
「一番大事なのはやろうという気持ち。祭りを一度無くしてしまうとなかなか元には戻せない。そのために意図的に変化させていくことも必要です。たとえば祭りがデジタルと融合したら何が起こるのか、伝統はキープしながらも社会実験を続けていくことが重要です」(渡邉さん)

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また渡邉さんが最後に、オンライン化した祭りにも精神性、スピリチュアル性が宿るための条件として下記の3点を挙げました。
ひとつめは“儀式”。なにがしかの儀式を経てオンライン祭りに参加する仕組みにすること。
ふたつめは“お神酒”。できれば参加者がお酒を飲んで参加すること。
みっつめは“サウンド”。ヘッドフォンをすると体験の質が上がるような仕組みづくりをすること。

人々の心が集い、繋がることができれば、たとえかたちは変化しても祭りは祭りとして地域や生活に寄り添い続けることができる。祭りという文化のそんな柔軟さは、裏を返せば、人々にとって祭りがいかに重要なものであるかの表れでもあるようです。
変化を続ける“これからの祭り”のあり方には、混乱する社会のなかで自分らしく生き続けるためのヒントさえも見いだせるかもしれません。

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