シブヤの未来を実装する ~テクノロジーで社会を変えるとともに、社会を変えてテクノロジーを活かす~
<登壇>
馬田隆明 東京大学 FoundX ディレクター
葉村真樹 東京都市大学 デザイン・データ科学部 教授
長田新子 一般社団法人渋谷未来デザイン 理事・事務局長
理想を描くことからはじまる、渋谷の未来の実装
本セッションでは、「未来を実装する」(英治出版)などの著者で知られ、東京大学でスタートアップの支援をしている馬田隆明さんをファシリテーターに迎え、ともにシブヤ・スマートシティ推進機構(SSCA)の理事である、東京都市大学デザイン・データ学部教授の葉村真樹さん、SIWエグゼクティブプロデューサーの長田が登壇。渋谷の課題と未来について、シブヤ・スマートシティ推進機構の取り組みを踏まえながら検討しました。
まず馬田さんが、イノベーションの歴史を振り返りながら「イノベーションというと技術的なイノベーションを思い浮かべてしまいがちですが、その技術を活かすための制度や組織、仕事のしかたの刷新など、補完的イノベーションも必要」と指摘。つまり、テクノロジーを社会に実装しイノベーションを起こすためには、同時に社会自体を変革しテクノロジーがよりよく活されるようにする姿勢も重要だと言います。
その上で馬田さんは、新しいテクノロジーやサービスの社会実装を進めていく上で必要な「デマンド」「インパクト」「リスクと倫理」「ガバナンス」「センスメイキング」の5つ要素を説明しました。「デマンドは基盤。これがないと多くの技術は社会実装されません。ではデマンドは何から生まれるかというと、課題です」
興味深かったのは、その課題をいかに導き出すかという点。馬田さんは「課題= 理想(インパクト)- 現状」とその関係式を示しながら、「現状を分析し、課題を明確にするような方法はデザイン思考などで実践されているが、一方で忘れがちなのは、理想を起点にして課題を明らかにしていくこと」だと言います。「実際に、スタートアップや社会起業家は、“こんなふうな社会になったらいいよね”という理想を描くことで、新たな課題を浮かび上がらせる。そしてそこからデマンドを生み、“それを解決しないと!”というニーズを生んでいる」。加えて「特に成熟された社会においては、そうしたデマンドを顕在化するために、理想の未来(インパクト)を提示し、そして問題を提示することが重要」だとも。
その後、馬田さんから、シブヤ・スマートシティ推進機構の理事であるふたりへ、“これまでの振り返りや実感”について問います。
葉村さんは「まだシブヤ・スマートシティ推進機構は始まったばかり。大事なのは、市民の観点でデマンドは何なのか、何がインパクトのあるものとして存在していて、どんな課題があるのか、というところを明確にしていくこと。またデータを使って何かするということが目的になっている——つまり手段が目的化してしまっている部分もあるので、そのマインドセットの切り替えが必要」と率直な意見を述べました。
長田は、2020年、コロナ禍の際に一般社団法人渋谷未来デザインで手がけた「バーチャル渋谷」、また最近行なったという「AIR RACE X」の取り組みを紹介。後者は、渋谷にスポーツコンテンツが少ないという視点から生まれたAR技術を駆使したエアレース。世界中から集められた実際のレースフライトデータを一元に集約・分析した上で競技データを生成し、仮想空間の渋谷の上空を飛行機が飛び競い合うというもの。この取り組みのために、アスリートやXRの専門家など、さまざまなプロフェッショナルが熱量をもって参加したと言います。葉村さんも「まず、やってみることも大切。そして、オープンイノベーションには、そういうふうに自分の専門分野と異なる人たちが出会うことも重要」と。
また渋谷には、多様なステークホルダーがいるという話にも。「行政、民間企業、町内会などが一緒にまちづくり協議会などに参加して話している。そんなみなさんがステークホルダー。実際に渋谷には何かをやりたい人がたくさんいる。街に関わりたい人がたくさんいるのが渋谷」と長田。葉村さんも「俺たちはこういうことができる、私たちはこうするぞ、というのをそれぞれの力に変えて、社会を変えて、結果、テクノロジーを活かして新たな世界がこの渋谷でつくれればいいな、と思っています」と添えました。