「未知の部分を想像力で補完することにクリエイティブの源流がある」
クリエイティビティの生まれる場所を探る
「オープニングセッション」
11月7日(月) 17:30-18:00
<登壇>
長谷部 健(渋谷区長)
小林 武史(音楽家/ap bank代表理事)
金山 淳吾(SIWエグゼクティブプロデューサー)
長田 新子(SIWエグゼクティブプロデューサー)
「SIW2022 オープニングセッション」では、長谷部健渋谷区長、音楽家の小林武史さん、SIW プロデューサーの金山淳吾、長田新子が登壇。「クリエイティビティはどこからやってくるのか?」をテーマにトークが行われました。
トークセッションではまず、今年で5度目の開催を迎えるSIWについて、長谷部区長が「今では秋の渋谷の風物詩になりつつある。渋谷はこの5年間の間に大きな開発があり、街の景色も変わってきたが、その反面ではIT企業が沢山集まってきたことでスタートアップの息吹もある。また渋谷区としても、ここから始まったアイデアを味付けして、街の整備を行うなど、いろいろな実装ができているので、SIWは本当に頼りがいがあるプロジェクトになってきたと感じている」と語りました。
音楽活動だけでなく、非営利団体「ap bank」の代表理事として、持続可能な社会に向けた活動にも取り組んでいる小林さんは、これまでに被災地である宮城県石巻市でアートと音楽と食の総合祭「Reborn-Art Festival」を開催するほか、千葉県木更津市にサステナブルファーム&パーク「KURKKU FIELDS」をオープンさせてきました。金山はそのような小林さんの活動について、「行き過ぎた経済合理性に対して、人間の生命性を残さなければいけないということを伝えるプロジェクトをやっている」と説明。それを受けて、小林さんはそういった活動に目を向けることになったきっかけについて、こう語りました。
「自分の中で確信的にあったのは、都市にできないことをやるということ。今の都市の合理性の中で人間は、だんだん”出会う”ということの価値を見出せなくなってきていると思う。でも、地域の中にはそういう余白のようなものがまだある。それを色々な形で仕掛けていき、都市に暮らす人たちが訪れることで東北が復興していくことを考えた。また被災地で原発があった福島は東京など都市の豊かさを支えていくところでもあったので、都市の経済に依存する形での復興は危ういだろうという思いもあった。こういったことの答えが出るまでにはまだまだ時間がかかるが、木更津で今やっていることも含めて、僕らが仕込んでいくことで色々な出会いが起こっていくし、それが実際にずっと起こっている状況だ」
ab bankのキーワードのひとつには”出会い”というものがありますが、それはSIWにもインストールされて渋谷の街にむける形で変換されています。そのことについて、金山は「人と人が渋谷で出会い、交流が生まれることで1+1が2以上のパワーになることをイメージした」と述べました。
またトークセッションでは、これまでプロデューサーとして、小林さんがどのようにさまざまなクリエイティブのアイデアを実装し、かたちにしてきたのかも話題になりました。
小林さんとは旧知の間柄である金山は「クリエイターというと何もしなくてもアイデアが降って湧いてくるイメージがあるが、自分で何かに反応する準備ができていたり、その時に自ら学びにいける。そして、その学びが足りなければ人に聞きにいける傾聴力が大事だということを小林さんから学んだ」と発言すると小林さんは「かなり強いリーダーシップでプロジェクトを動かしていると思われているかもしれないが、実はファシリテーター的な部分もある。自分にとって、クリエイティブを作るということは基本的には炙り出していくような作業。それはひとつの楽曲を作ったり、1枚のアルバムを作ったり、ひとつのステージを構成していくようなことでもあり得る」と述べました。
その上でクリエイティビティが生まれることについては、こう語ります。「クリエイティビティがどこから生まれるかについてはわからないが、すごく大事なのはそこにピュアな想いで従っていくということ。そして、そこでの気づきが自分から生まれなくても問題ないという姿勢でいることだと感じている」と。
続いて、クリエイティビティの源流の話に話題が移ると、小林さんはこう、自分の考えを示しました。
「自分の中でも人間の進化の仕方に関してはよくわかっていない部分がある。でも、人間はそのわかりきっていない部分を想像力で補完することができる。そこにクリエイティブの進化の方向性がある。それと美意識というとすごく曖昧な要素だが、例えば、”アート的な”と言い換えて、捉えることができる。おそらくこれからのクリエイティブにおいてはそういう捉え方が役に立つと感じている」
長谷部区長は、「渋谷区を”クリエイティブ・シティ”として定義した時にクリエイターに対する期待は?」という質問に対し、「子供の頃から渋谷で育ってきたが、いろいろなクリエイターがずっと周りにいた。そういった環境は行政が作ったものではなく、民間が作ってきたと言える。だから、行政はそれを邪魔しないようにしたい。それと本当に社会に役立つアイデアを提供していただけるのであれば、それを実装できる自治体でいたい」と回答。
さらにクリエイティブは街のカルチャーだけでなく、区役所のサービスにも必要だという認識を示した上で「今までの及第点と思ってたことよりも、一歩踏み出した色気のある街づくりを目指しているからこそ、渋谷はクリエイターが活躍する余白がある街だと思っている」と述べました。
長田は「クリエイターも自分たちのアイデアを伝えたり、一緒に作れる土壌があればさらにそれを発展させていくことができると思う。さまざまなかたちでクリエイティブを活かすことができるが、クリエイターの中には社会との接点を持ちたい人が多い。それを支援できる渋谷のような街があることをクリエイターに伝えていきたい」と語りました。
トークセッションの終盤では、これからの時代の都市部の役割に関して金山が小林さんに質問する場面も。それを受けて、小林さんは「都市部の文化を担っていくという面は下がってきている。例えば、おもしろいことをやっている人間が夜な夜な集まる機会が少なくなってきたことなどもあるが、それはオンラインでいろいろ繋がることができる今だとそうなることは仕方のないことだとも思う」と語ります。しかし、小林さんはその一方で都市部の中で効率よく生きていくことが未来のために重要な役割を果たすとの認識も示しました。
「効率を求めて都市部というものが成長していくことを否定しない方がいいと思っている。最近では都市部と地方の両方で暮らす二拠点生活もトレンドになっている。それはそれであってもいいと思うが、その一方で都市部は都市部で合理性を追求しても個人的には大丈夫だと思うし、逆にそうなれば都市部にそのリターンが表れるということもあるはず。そういった合理性を肯定するところから新しいクリエイティブが生まれてきてもいい」
いよいよ、幕を開けたSIW 2022では、期間中、渋谷の街に実装したいアイデアを持ったさまざまな人が登壇します。その中で示されるアイデアが今後、街にインストールされていくことで、より魅力的で誰もが暮らしやすい街へと渋谷が進化していくのではないでしょうか?