＜登壇＞
齋藤精一　パノラマティクス代表
中島伸　東京都市大学 准教授
杉浦小枝　渋谷区副区長
坂井洋一郎　東急株式会社 渋谷開発事業部長
長田新子　一般社団法人渋谷未来デザイン 理事・事務局長

 

2040年に向けた渋谷の街づくりのヒントはファンダム？

 

渋谷で行われている大規模再開発は2030年代にひと段落を迎えます。ではその後の2040年に渋谷はどのような街を目指すべきでしょうか。

「渋谷計画2040」は、2018年に「成熟した国際都市渋谷」の実現に向けて策定されました。しかし、その後の新型コロナウイルスの感染拡大によって様相も一変しました。また再開発によってハードは整備されますが、ソフトはどのように考えるべきでしょうか？

行政からは渋谷区副区長の杉浦さん、事業者からは東急株式会社の坂井さん、都市開発の専門家である中島さん、パノラマティクス主宰の齋藤さんが登壇し、公開議論を行いました。

まずは中島さんから「渋谷計画2040年」の概要について解説、いまこのタイミングで見直しが必要であることを説明します。その上で齋藤さんは、2040年に向けて渋谷らしいカルチャーをどのように創造していくべきかを話します。

「いまはどこの街も“金太郎飴化”していて、それが悪いわけではないが、渋谷という街の魅力は失われてしまう。
たとえばBTSのファンの間では、メンバーの誕生日に自分たちで広告枠を購入してお祝いをするカルチャーがあって、事務所もその行為を許容している。同様に、渋谷の街づくりでキーワードとなるのは、ファンダムとクリエイターズエコノミーだと思っている。渋谷を好きなファンが街づくりに参加できるような仕組みがあれば面白いのでは」

つづいて、杉浦副区長が二人の意見を受けて、行政の視点から2040年の渋谷についてこう話します。

「街があっても文化がないと人は根付いていかない。『SIW』などのいろんなイベントには、渋谷との関わりがある人をもっと増やしていきたいという狙いもある。渋谷での体験そのものを価値としていきたい」

 

また東急株式会社の坂井さんは渋谷区の歴史を振り返り、2040年へ向けた街づくりの意義を説明します。

「当社では渋谷ファン、関わりがある方のことを“渋谷フィールダー”と呼んでいます。今年はハチ公生誕100周年であるように、渋谷区の街づくりも100年の歴史がある。なかでももっとも大きく変化したタイミングは東京オリンピック。NHKが渋谷区に拠点を移し、代々木公園、キャットストリートが生まれて、宇田川町にはレコード店が200店舗もできた。そして、今から50年前にスクランブル交差点、パルコ、109ができて、ファッションの顔が渋谷に加わった。そのような歴史を振り返ると、我々も“働く”“遊ぶ”に力は入れてきたが、“暮らす”渋谷という視点は足りていなかったと考えています」

 

4名それぞれの2040年へのビジョンが披露されたのちに、街づくり・都市開発の在り方の変化について話します。
中島さんは、
「渋谷の様相が変わってきているなかで、文化をどう形成するかを議論していかなくてはいけない。これまでの都市開発では、『都市の課題をどうやって解決するか』だった。しかし、この20年は『都市の価値創造はどうなるのか？』が重要になっている。渋谷にきたら、どのような課題が解決できるのか？ 文化は意図的にはつくれないので、そのような視点で人が集まると、自発的に文化が生まれてくる土壌ができるのでは。スペース（建物）があるから文化が生まれるのではなく、そのスペースを使い込むことによって文化は生まれる。それを規律よりも規範で運営して、能動的な“余白”をつくっていきたい」と言います。

 

40分という短い時間でしたが、ファンダム、余白、規範、街にくる目的など街づくりの多くのヒントを見つけられたディスカッションとなりました。過去、様々なユースカルチャーが自発的に生まれた渋谷ですが、時代や環境が変わった現在、また2040年に向けてどのような街になっていけるのでしょうか。