ART in the CITY 〜都市とアートの共生〜
<登壇>
南塚真史 NANZUKA 代表
高村美和 一般社団法人日本現代美術商協会事務局
西野達 アーティスト / 金沢美術工芸大学客員教授
金山淳吾 一般財団法人渋谷区観光協会 代表理事
「ハチ公の部屋」から始まる一歩。渋谷は“都市とアートの共生”をどう捉えるか?
100年に1度の大規模な再開発が行われている渋谷は、文化・エンターテインメントの基本構想として「渋谷区すべてを、エキシビジョンと考える。」を掲げています。
本セッションでは、「都市でアートはどのような役割を果たすのか?」をテーマにディスカッションが展開されます。
SIW最終日となった11月12日、忠犬ハチ公の生誕100年を記念したアート作品「ハチ公の部屋」が披露されました。
このアート作品を手掛けたのは、公共空間に大型プロジェクトを手がけることで知られる西野達さん。シンガポールでマーライオンを屋内に取り込んだ「The Merlion Hotel」、マンハッタンでのコロンブス像周辺をリビングルームにした「Discovering Columbus」などこれまでに世界各地でパブリックアートを発表してきました。
日本で最も知られる馴染みのあるモニュメントの一つであるハチ公に、「お疲れ様」という気持ちを込めて、パブリックからプライベートな空間に移動する、というのが今回の作品。このセッション「都市とアートの共生」も、この西野さんの作品についての話題を中心に進んでいきます。
まずファシリテーターである金山が「日本のパブリックアートは未成熟ではないか」として、「日本と海外のパブリックアートの違い」を西野さんに問います。
「ドイツでは日本と真逆で、アートで街を盛り上げていきたいという想いが根底にあります。初めてドイツで役所に行ったときも、担当の人が面白いと思ったらすぐに上司を呼んでくれる。そして、実現するための会議をやって、経理も交えて予算も話して、その場で決まっていく感覚ですごく早い」(西野さん)
「ハチ公の部屋」の実現には、さまざまな交渉ごとも含めて準備に1年6ヶ月もかかったと言います。また披露されている期間は、11月12日の朝8時から22時までのわずか14時間です。行政の姿勢の違いもさることながら、南塚さんは法律やルール、アートへのリテラシーの違いを指摘します。
「行政の方に理解があっても、それを規制する法律やルールの解釈で『誰がリスクを取るんだ?』という点でつまずきやすい。屋外広告物条例とか」(南塚さん)
金山は大きく頷きます。日本では「パブリックアートとして相談しても最初にぶつかる壁は公共広告の文脈。アートと広告が同じカテゴリで審査される」とつづけ、「大きいサイズの作品や壁面にアートを入れるのが非常に難しい」という現実を話します。その上で、街中にアートがある意味・意義に話題は移ります。パネリスト3名は共通した意見として「(美術館やギャラリーに行かずとも気軽にアートに触れられることでの)創造力への刺激」を挙げます。
まだまだ行政の姿勢や法律の障壁などクリアすべき課題は多い日本ですが、金山は最後に渋谷区でのアートの展望をこう語ります。
「自然現象でカルチャーになった例が渋谷にはいっぱいある。レコード屋が集まって、音楽が好きな人が集まって、それが渋谷系と呼ばれる音楽になって、ムーブメントになった。1990年代にはギャルと呼ばれる女性たちが社会現象になった。将来的に渋谷の街のアートも“渋谷系アート”と言われるように自然発生していくプラットフォームに街がなっていければ」
西野さんも「大きな一歩」と語るように、渋谷の象徴でもあったハチ公像がアート作品になったのは非常に大きな転機です。今後、日本のパブリックアートの変化の先駆けとして渋谷区がどのように都市とアートを共生させていくのか、ぜひ注目していきましょう。