耳をふさがないイヤホンが起こすコミュニケーション革命
本セッションと同日に「耳をふさがないイヤホン」として、NTTソノリティが音響ブランド「nwm」を設立したというリリースが発表されました。リリースに先駆けて、2022年に7月にクラウドファンディングを実施したところ、最終的に目標金額の30倍を達成するなど、以前より注目を集めていたイヤホン。本セッションでは耳をふさがないことでどのような未来、コミュニケーションを実現するのか、に迫ります。

「聴覚を開放するPSZ技術が人、都市にもたらす変革とは」
11月8日（火） 18:00-19:00
＜登壇＞
evala（音楽家/サウンドアーティスト）
川添 雄彦（NTT 代表取締役副社長 副社長執行役員）
顧 文瑜（マーケティングスペシャリスト）
竹内 慎太郎（NTTソノリティ株式会社 クリエイティブディレクター）

NTTが開発したパーソナライズドサウンドゾーン（PSZ）技術を駆使した、音を閉じ込めて「耳」を解放するという新しい体験は、イヤホンのドライバー音の出口から一定距離で、ある音波（正相）に対して、逆相の音波を当てることで打ち消し合い、周囲の音漏れを防ぐ仕組みとなっています。音楽を聴きながらも、話し声や環境音を遮断しないのが最大の特徴です。

「イヤホンは音楽を体験する、自分の世界に浸れるのが基本的な機能ですが、PSZ技術を使ったイヤホンは新しいコミュニケーションツールになり得る」とサウンドアーティストのevalaさんは語ります。パーソナルな世界を確立すると同時に他者とのコミュニケーションも実現する、この相反する機能はどのようなポテンシャルを秘めているのか、具体的な事例を川添さんと竹内さんはこう説明します。

「会話をする際、相手の表情や抑揚などで感情が伝わります。言語が異なる人のコミュニケーションをするときに同時翻訳がありますが、そういった意味でこの技術を使うことで、言語が異なる人同士のコミュニケーションも進化する。耳の周囲では意味を伝えることができ、同時に表情や言葉の抑揚も聞こえてくるので感情も伝わる」（川添さん）

「パリでファッションショーをお手伝いしたときに、来場者にはPSZからは渋谷の街の雑踏の音が流れてくる仕掛けにしました。パリにいるのに、感覚的には渋谷にいる。今までモノを知覚・認識することにいかに視覚に頼ってきたか。聴覚による知覚で都市もデザインできるかもしれない」（竹内さん）

一見、機能の説明をそのまま受け取るとパーソナルな世界を阻害するように感じますが、２人が具体例を出したように聴覚によって人間はさまざまな知覚をして、感情を持ちます。evalaさんがさらにその説をこう肉付けします。

「耳で世界を見る、ということ。原始では、言葉の前に音楽があったので、音で何かを認識することが人間には強く残っているはず。懐かしい、という感情も当時の写真を見るより、当時の音やハマっていた曲のイントロを聞いた方がタイムスリップする感覚がある。視覚優位ではない世界が実現したら、都市デザインもさまざまなツールもライフスタイルも変化するはず。たとえば、渋谷のど真ん中で滝の音が聴こえたらどのような感情、行動になるか。いわゆる建てない建築です。逆にスクランブル交差点にいるのに何の音も聴こえないとどうなのか、とか」（evalaさん）

滝の音が聞こえるとそれぞれビジョンに差異はあれ、滝が近くにあり、過去にみた滝の姿を人は想像するはずです。人がいるのに音が聞こえない感覚も想像が難しいですが、まさに未体験の世界と言えるでしょう。

「人間の進化のスピードは思ったより早い。環境の変化が人間の進化を加速していると考えると、PSZの技術が人間の新しい知覚、感受性を作れるかもしれない」（川添さん）

パブリックなものとパーソナルなものが融合する世界。ぜひ皆さんも体験してみてください。