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異質性がアイデアを育みイノベーションを目指す都市ヘ —「社会彫刻:ベルリンからの未来」【SIW2019レポート】

開催: 9.15(日) 渋谷ヒカリエ ホールA

“多様な未来を考える12日間”「ソーシャルイノベーションウィーク渋谷」
https://social-innovation-week-shibuya.jp/2019/


DIVE DIVERSITY SESSION
Keynote「社会彫刻:ベルリンからの未来」

2019年9月15日(日)13:00~13:45
渋谷ヒカリエ ホールA
<登壇>
メディア美学者/武邑塾塾長 武邑光裕


「一昨日ベルリンから戻ってきたばかり」と話し始めた武邑光裕さんが、「社会彫刻」について、ベルリンの最新事例について紹介します。

社会彫刻とは、20世紀に活躍したドイツの芸術家ヨーゼフ・ボイスが生み出した概念。
「社会の構成要素を彫刻とみなし、それを改善し創造するメッセージ」だと武邑さんは説明します。つまり社会的イノベーションのことを指しますが、いまベルリンにはさまざまな変化が巻き起こり、ミレニアル世代からもっとも高い支持を獲得している都市になっていると言います。

その結果、数多くのスタートアップが拠点を持ち、大企業や自治体主導のイノベーションハブも次々と生まれています。武邑さんは多角的な視点でベルリンの多様性について紐解いていきます。



まず過去50年間、イノベーションの中心地であったシリコンバレーの変化を説明。シリコンバレーは車でしかアクセスできない郊外に位置し、“空間的に隔離された企業キャンパス”であったと武邑さんは指摘します。

「しかしベルリンは現在、コワーキングスペースはもちろん、カフェや商店街など、コミュニティが生まれ得る施設が増えています。
ベルリンの壁崩壊から30年経ちます。壁崩壊後は荒廃地だったため、スコッター(不法占拠者)がベルリンにやってきた。ホワイトハッカー、アーティスト、テクノDJ、デジタルボヘミアン、コピーキャット、ネオヒッピー……同質社会ではなく“異質性”社会が誕生していったのです。いまベルリンの大企業のオフィスに人はいません。ガラガラです。みんな外に出て働いているんですね。その方が新しいイノベーションが生まれますから」(武邑)

そのようなベルリンを武邑さんは、多様性社会≒異質性社会だと説明。多種多様な人種や才能が集まり、大企業や政府との共創のチャンスに溢れる街になっていると言います。



「若者を惹きつける大きな要素のひとつがコスト。東京とベルリンを家賃や食費、交際費など費用で比較すると、東京の方が51%高いんです」(武邑)

ベルリンの街づくり、つまり社会彫刻は、大企業や行政と豊かな発想を持ったスタートアップが出逢える空間を創出していると続けます。

「単純にかっこいい空間をつくりました、ではなくて創発をうながすような街づくりがされているのがベルリン。ネオヒッピーが創り上げているエコヴィレッジ:ホルツマルクトはいい例ですし、人がいなくなったショッピングモールには、都市型農園を作る計画があったりと、多様性ではなく異質性とも言うべき人たちが集まり、そのアイデアを受け入れあい、積極的に投資が行われているのがベルリンです」(武邑)



さらに武邑さんは具体的にベルリンでどのようなイノベーションが起きているかを解説していきます。

「大企業とイノベーションハブとの共創が非常に多く、その代表例がMasSと呼ばれるモビリティの革命。少し前までは電動自転車が主流だったのですが、いまは街にeスクーターが溢れています。さらにダイムラークライスラーとBMWが合弁事業をしており、多岐にわたるシェアリングエコノミーを展開している。
リテール(小売)も興味深い。個人化と超専門店化の傾向が強く出ている。例えば、蟻やタイプライターの専門店など世界中でもベルリンにしかないお店がたくさんあるから、人が集まってくるんですね。」

蜂=スタートアップ・個人、木=政府・大企業・行政に例えて、「蜂と木の関係」が社会彫刻の完成形のひとつとして存在していると武邑さんは説明します。蜂と木が共生関係にあるように、新しいアイデアやビジネスプランをもった蜂と、それを実現する手段(資金やネットワーク、立法権限)を保有する木が自然に相互補完的である関係性。

2020年の東京オリンピック・パラリンピックを間近に控え、労働人口減少など様々な社会構造の変化が起きている日本だからこそ、もっと積極的かつ広い視点に立った街づくり、ソーシャルイノベーションの勃興が期待されます。

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