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それはアートか? それとも、ただの迷惑行為か? —「ストリートアートと落書きの境界」【SIW2019レポート】

開催: 9.14(土) NT渋谷ビル


「ストリートアートと落書きの境界」
2019年9月14日(土)13:00〜14:00
NT渋谷ビル
<登壇>
一般社団法人CLEAN&ART
傍嶋 賢
アーティスト / ペインター
yoshi47
株式会社HIDDEN CHAMPION代表
松岡秀典
特定非営利活動法人 365ブンノイチ
田村勇気
渋谷区役所
國副 隆
<ファシリテーター>
東急不動産株式会社
伊藤秀俊


「ストリートアート」と、迷惑行為である「落書き」の境界について、またそれぞれの在り方について語るトークセッションが、
“多様な未来を考える12日間”「ソーシャルイノベーションウィーク渋谷」の一環として開催されました。

多様性を尊重しようとする風潮のなかで、見方によって“アート”とも”迷惑行為”ともとれる「グラフィティ」と、どう向き合うべきなのでしょうか——。



「描かれた意図に関わらず、すべての絵はアートだと僕は思っています。そのなかに、その行為が違法であるのか合法であるのか、という線引きがあるのだと思います」
そう切り出したのは、“落書きを「クリーン」と「アート」の力で解決する”をビジョンに掲げる一般社団法人CLEAN&ARTの傍島さん。



渋谷区役所の國副さんは、
「描いた場所の所有者の合意が得られているかがポイント。いくら有名なアーティストでも、許可が得られていなければそれはアートではなく落書きと判断すべきだと私は思います」と語ります。

ストリートアートを迷惑行為だと感じる人たちと、そこにアイデンティティを見出して創作活動を続ける人たち。
ここで客席から「お互いにコミュニケーションをとることができれば、なにか糸口が見えるのでは」との意見が。

傍島「この問題に限らず、街には相互理解のスタンスが大切。対立関係をつくることでは課題解決に向かわないですよね」

國副「互いの意見を聞くというのは大事だと思います。
そもそも彼らの動機はなんなのか? ということを理解したいのですが…」



ストリートアートを原点とし、国内外でアーティストとして活動するyoshi47さんは、こう言います。
「僕は“グラフィティライター”と“グラフィティアーティスト”に分けられると思っています。
ライターたちは縄張り意識で描き、それをライフワークにしている。アーティストたちはグラフィティからアートが芽生えて、認められて、個展やブランドとのコラボなどを目指していく。そのふたつの道に分かれていくと思います」



メディア「HIDDEN CHAMPION」を運営する松岡さんは、
「動機は人それぞれ。世界中にライターたちの歴史とカルチャーがあって、確固としたシーンがある。そのなかで地位や名声を得ていくことはライターたちにとって重要なこと。
そもそもストリートで描いている本人たちにはアートという意識はあまりなかったと思う。自分のスタイルをただ追求していただけ。メディアなど周囲の人たちがそれをアートにカテゴライズして、やがて値段がつくようにまでなったのでは」との見解。



壁や建物に絵を描いて街の名所にすることを目指すクリエイティブチーム「365ブンノイチ」の田村さんは、
「たとえばフィラデルフィアでは、貧困地域のグラフィティをパブリックアートととらえ観光名所として活性化した事例もある。また、僕がプライベートでサーフィンをしている場所の近くには偶然、yoshiさんが描いた壁画があって、皆が写真を撮っているのをよく見かけます」と。

yoshi「地域を盛り上げる為に壁画を描いて欲しいという依頼を受けることは国内外を問わず多いです。それが観光資源になるという考え方も、海外では当たり前。アジアでも多く、日本だけが遅れている状態だと思う。
ただ日本でもたとえば、大阪の西成地区の活性化のために立ち上がった『西成ウォールアートニッポン』というプロジェクトがあり成功しています。治安が悪く有名だったエリアに、いまでは有名ブランドのお店も並んでいたりする。地元のグラフィティライターたちが実際に参加しているのがこのプロジェクトの強みで、こうして街の活性化に寄与しているのですから人間は簡単に白黒つけられないということを物語っていると思います」



ストリートアートを街の活性化のために前向きに活用すること。そこに光明のようなものが見えてきました。

そして客席から、「日本には屋外広告物条例があって、たとえ商業目的の広告でなく、街の人を活気づけるための壁画でもこれに抵触してしまうという現状がある。これをまず是正する必要はあるのでは」との重要な指摘がありました。

松岡さんは同調しながら、 「ストリートアートよりも街頭広告のほうがよほど下品に見える、というものもなかにはありますよね(笑)。
ストリートアートには既にシーンの文化が根強くあるので、なくなることはないと思う。きっとずっと“イタチごっこ”が続くでしょう。しかしそれとは別に、ストリートアートを公式に表現していい場所が渋谷にもあれば、世界的にみて魅力ある街になると思います」と語り、

yoshiさんは
「僕たちアーティストが渋谷に絵を描いて、お金がもらえる仕組みがあったら、下の世代に健全な道筋をつけてあげることができる。だから僕にも渋谷から仕事の依頼をください(笑)」と、笑いを誘いながら提案。



それを受け、最後に渋谷区の國副さんはこう語りました。
「今日、それぞれの立場からのお話が聞けて、描く人の道をつくる必要性についても考えることができました。
しかし渋谷区としては、いまようやく、描かれた絵を消していく作業の環境が整ってきたところ。いまの段階では絵を消していくことで課題解決を模索していこうという段階ですが、その次のステップとして我々がどうあるべきか、考えていかなければいけないと思いました」


「ストリートアート」「落書き」をめぐる問題は一朝一夕に解決するものではおそらくないでしょう。
こうしたセッションを通して対話をし、互いの理解を深めていくことで、少しずつ正解が見えてくるのだと思われます。
その意味で、これからの可能性を感じる、とても有意義なセッションとなりました。

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