【SIW CONNECT vol.3 レポート】都市における女性の健康なライフスタイルとは? -渋谷モデル実現に向けて-

今年も11月に開催される「SIW2024」に向けたプレイベントとして、5月はエンタメの未来6月は公共空間の利活用をテーマに開催してきた「SIW CONNECT」。3回目となる今回は「都市生活における女性のウェルネス」がテーマとなります。

主催・企画は、一般社団法人渋谷未来デザインによる女性の健康課題解決やウェルネス向上を目指すプロジェクト「わたしたちのウェルネスアクション」。
2022年に「Women’s Wellness Action from Shibuya」として発足、2024年にはプロジェクト名称を「わたしたちのウェルネスアクション」に変更し現在に至ります。

今回の「SIW CONNECT」は、「わたしたちのウェルネスアクション」のさらなる活動の拡大に向けたキックオフでもあり、第一部では渋谷で過ごす若い女性を対象に実施したアンケート調査の結果を発表し、第二部ではパネルディスカッションを実施しました。女性のウェルネスで特に重要となる食事・運動・睡眠にフォーカスして、これから渋谷のまちからどのようなアクションを取れるのか、を探っていきました。

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<登壇>
長田新子(一般社団法人渋谷未来デザイン 理事・事務局長)
本田由佳(慶應義塾大学SFC研究所 健康情報学者・博士)
<第二部より登壇>
ヤハラリカ(MC/モデル/ビーチハンドボール選手)
尾澤恭子(Koala Sleep Japan株式会社 最高マーケティング責任者)

 

精神的にも身体的にも“ハッピー”な渋谷区女性はわずか5.4%

2024年6月に世界経済フォーラム(WEF)が発表したジェンダーギャップ指数において、日本は146カ国中118位という結果となりました(参考:内閣府男女共同参画局)。まだまだ日本は世界と比較してジェンダーギャップが大きいのが現状です。

渋谷から女性の健康問題解決やウェルネス向上を目指す「わたしたちのウェルネスアクション」は、これまでに情報発信やネットワーキング、勉強会など多岐にわたる活動をしてきました。そして昨年、渋谷在住・在勤もしくは渋谷によく訪れる20〜40代の女性1600人を対象にアンケート調査を実施しました。

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第一部では、調査分析をリードした慶應義塾大学SFC研究所の本田由佳先生から、分析結果の一次報告と、現在抱える女性のウェルネスの課題についての説明がありました。

ウェルネスについてはさまざまな定義がありますが、「わたしたちのウェルネスアクション」では「健康に関連する感情的・身体的にウェルビーイングな状態と、からだ、心、地域社会を含む全体的な幸福を伴う健康状態」とウェルネスを定義づけています。

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まず本田先生から、現在多くの日本人女性が抱えている健康課題について説明がありました。今回はウェルネスに重要な要素として、食事・運動・睡眠が挙げられていますが、特に行き過ぎたダイエットについて本田先生は危惧します。

「日本人女性の痩せ願望は、国際的に見てもトップクラス。渋谷の女性へのアンケート結果でも、痩せている人がかっこいいと思う割合が48.1%いました。例えば、朝食を食べない人は多いですが、エネルギー摂取不足になると低体温と糖尿病にもなりやすい。髪の毛が抜けたり、乾燥肌になったりということも起こりやすくなります」 

さらにBMI(体格指数)が適正値である22以下になると、子宮や卵巣の機能障害や不妊になりやすいと警鐘を鳴らし、今回のアンケート結果では渋谷の女性のBMIは20.4だったと報告しました。

そして、本田先生は食事と同様に運動と睡眠が身体の健康を維持する上で重要であると話し、身体だけではなく心の健康の重要性にも言及しました。

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「精神的なウェルネスは幸福度が高いことが大事ですが、幸福度が高くても身体的な健康の面では医学的な介入が必要な人もいます。今回のアンケート結果をもとに、(上図のように)縦軸を精神的なウェルネス、横軸を医学的な問題として、4象限で分析タイプをつくりました。今回のアンケートで身体も心もハッピーな『ハッピーグリーン』タイプは、わずか5.4%しかいませんでした。『ハッピーレッドタイプ』が65.3%で、『アンハッピーレッド』は28.6%でした」(本田さん)

 

ハッピーグリーンタイプ:精神的な幸福度が高く、身体に医学的な問題がない/5.4%
ハッピーレッドタイプ:精神的な幸福度は高いが、身体に医学的な問題がある/65.3%
アンハッピーグリーンタイプ:精神的な幸福度は低く、身体に医学的な問題がない/0.8%
アンハッピーレッドタイプ:精神的な幸福度は低く、身体に医学的な問題がある/28.6%

 

今回はアンケート調査結果の一次分析であり、今後さらに詳細な結果が見えてくるとしながら、本田先生は渋谷区が女性のウェルネスに取り組む意義としてこのように語ります。

「精神的および医学的な視点で女性のウェルネスの課題に取り組む行政は渋谷区が初めてではないかと思う。学校教育だけ、企業だけ、行政だけだとなかなか達成できないことを、産官学民一丸となってネクストアクションを起こしたい」(本田先生)

 

 

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身体的な幸福と精神的な幸福の密接なつながり、どちらが欠けてもウェルネスは実現しない

第二部では、本田先生に加えて、MCやモデルとして活躍するヤハラリカさん、睡眠のスペシャリストであるKoala Sleep Japan株式会社 最高マーケティング責任者の尾澤恭子さんを迎えたパネルディスカッションです。

ファシリテーターの長田が最初に「あなたが考えるウェルネスとは?」を3名に問いかけました。それぞれ過去の経験をもとにこのようにウェルネスについて話します。

本田さん「私は中学〜高校と新体操をやっていました。新体操は“痩せなきゃいけないスポーツ”と思い込んでいて、試合前の2週間で8kgものダイエットをしてドクターストップがかかった経験があります。結局、体調を戻すのに半年かかりました。人間の健康は、栄養と食事と運動でできていることを痛感して、現在は生理学と解剖学を専門としています。私の考えるウェルネスは、元気で美しい“骨”をつくる生活とケアで、骨に注目しています」

尾澤さん「マットレスを中心とした睡眠関係の商品や家具を販売しているKoala Sleep Japanでマーケティングの責任者をしています。私の考えるウェルネスは、心も体も無理していない、我慢していない状態。睡眠は、忙しいときなど、生活の中で一番犠牲になりやすい部分。でも、睡眠を犠牲にすることは自分自身の健康を犠牲にしているということを伝えていきたい」

ヤハラさん「私はマラソンをやっていて、なかでも、砂漠を7日間で250km走るというウルトラトレイルレースを3回経験しています。また、ハンドボールの選手時代に、摂食障害に10年間ほど悩まされていました。過食嘔吐と呼ばれるもので、ガリガリになるわけではないのですが、心も体もボロボロでした。私の考えるウェルネスは、どういう状態の自分を一番好きか自分自身がわかっていること、です」

精神的・身体的な幸福の両立がウェルネスにつながることは3名ともに同意見で、男性と異なり、月経、妊娠など女性は意識しないといけないライフイベントも多い、と意見を交わします。そこで本田先生は、女性が意識する「キレイ」「美」のためにダイエットをすることに関してこのように指摘します。

「朝ごはんでタンパク質を摂っていないと睡眠の質が悪くなるというデータがあります。人間の体内時計は25時間なので、そのズレをリセットするためには朝ごはんでタンパク質を摂り、そして日光を浴びるのが大事です。日光はビタミンDを生成するのに不可欠で、しっかり栄養を摂取して活動することで、睡眠の質も上がり、お肌も良くなり、女性ホルモンの分泌も正常になります。その結果、子宮や卵巣の機能障害が減っていくと考えています」

その指摘を受けて、尾澤さんが専門分野である睡眠の観点で興味深いデータを引用します。

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「日本人女性の1日の平均睡眠時間は7時間9分で、世界平均より79分少なく、33か国で最下位です。さらに日本人女性は男性より睡眠時間が毎日13分短いというデータもあり、これを1ヶ月で換算すると男性との差は6時間30分。つまり女性は男性と比べて1ヶ月で1日分、睡眠をとっていないことになる。睡眠中に成長ホルモンが分泌されるので、精神的にハッピーだと思っていても少しずつ体に不調が出てきたりなど、睡眠不足によって精神のハッピー状態も維持できないということが起こる。睡眠は健康に関わるすべての土台となります」

本田先生が食事、尾澤さんが睡眠について話すと、ヤハラさんが心について自身の経験を交えてこう述べます。

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「私は摂食障害のとき、食べた罪悪感から自分で指を突っ込んで吐くような毎日でした。心を整えるには、食事が大事。食事には運動が大事。日本人は精神論にもっていきがちで、自分自身を追い込んでしまう傾向があると思っています。そうなるとメンタルまで崩れてしまうんですね。例えば、キレイになりたくてダイエットを始めますが、キレイって健康の上にしか成り立たない。どんなに痩せていても不健康だとキレイに見えないんです」

誰でも当たり前にSNSで情報発信をする時代において、誤った情報を鵜呑みにして、痩せなきゃいけないと強迫観念にしばられてしまうような問題についても意見が交わされ、小学校の頃からポジティブなボディイメージを教育していく重要性なども語られました。

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また睡眠については「時間より質」だと尾澤さんから説明があり、寝る前にポジティブなイメージを持つことが重要で、具体的にはその日の感謝をいくつか書き出すことで良い睡眠がとれるとのアドバイスもありました。

 

最後は、「ジャンプ」が運動として健康や骨にも有効ということを受け、本田先生が渋谷からアクションを起こすために地球をジャンプで揺らしたい、と呼びかけました。来場者の方々とその場で10回ジャンプをするという、他ではなかなか見られないユニークな締めくくりに。

今回は、心と身体の健康、食事・運動・睡眠について、多様な視点から意見が交わされました。今後SIW本番においては、より具体的なテーマでのディスカッションやワークショップなどが期待されます。渋谷区だからこそ可能な女性のウェルネスの実現に向けたアクションに、今後もご注目ください。