データを重ねることでより深い事実が見えてくる!
ビッグデータから考える渋谷の未来
<登壇>
栄藤 稔(大阪大学 先導的学際研究機構・教授)
齋藤精一(パノラマティクス主宰)
杉浦敬太(カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社 執行役員CSO兼CCO)
小原拓哉(ダイキン工業株式会社)
久保田夏彦(一般社団法人渋谷未来デザイン コンサルタント)
世界的な空調機メーカーであるダイキン工業株式会社は、「空気で世界を変える」のパーパスで知られるように環境経営の先進に取り組む企業です。
渋谷区でも多くのダイキン社の空調機が日夜問わず稼働していますが、それらはすべて24時間365日遠隔監視がなされ、空調機の運転状況、室外機の周辺温度、消費電力などのデータも取得しています。もともとは空調機の故障・修理と運転改善のために取得してきたデータですが、現在では環境改善に活用されています。
上図は、渋谷区の空調機で取得したデータから2024年夏の気温変化を可視化したもの。
「2024年の夏は、皆さんも非常に暑かったと記憶されているはずです。実際に渋谷は2019年と比較して暑かった。このように空調機から取得したデータで、地域の温度を知るなど環境センサーとして活用することもできますし、運転状況や電力消費データでCO2の排出量も可視化することができます」(小原さん)
水・熱・空気のデータを環境都市データと捉え、インフラとして活用する発想を、齋藤さんは「枯れた技術の水平思考」(任天堂の故横井軍平さんの言葉)だとし、このようなデータをゼロから取得する難しさと、データからビジネスに変える重要性も指摘します。
つづいて大阪大学教授の栄藤さんも渋谷区での調査の結果を発表。エアコンの設定温度などについてのアンケートとdocomo社の移動データをクロスさせることで、下図の5つのペルソナが見えてきたと解説します。
「まだまだ仮説段階ですが、この仮説検証を繰り返していくことがすごく重要です。今回の調査で、高齢者は渋谷区全体に薄く全体的に存在しておりあまり移動しない。パワー系は、恵比寿、表参道、青山で遅くまで働いており、エコ系は朝早く活動しているなどいくつかの行動パターンが見えてきました」(栄藤さん)
またアンケート結果で、空調機の運転パターンを固定にしている人が7割で、推奨温度である28度にしている割合はわずか11%しかいなかった結果から、まだまだ環境意識は低いのでは、という示唆もあったとのことです。
カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社の杉浦さんは、1.3億人、37兆円の購買・ライフスタイルデータを有するVポイント(旧Tポイント)のビッグデータ活用について話します。
「環境意識が強いといわれるクラスターの購買データ等を調査すると、自然食品など毎日の食品を気にしている人もいる一方で、普段からカップラーメンを多く食べている方も一定数います。等しく環境意識が高いと括っても行動はまったく異なります。データもいくつか重ね合わせると異なる事実が見えてきますので、それぞれのペルソナのどのフェーズに、どのアクションを取るかが今後のポイントとなります」(杉浦さん)
データを掛け合わせることで、単体では見えなかった事実をあぶり出すことができる。しかし同時に、複数のデータを一元化するには様々な障壁があり、決して簡単なことではありません。多様な企業・団体が持つ多様なデータが広く繋がり合う未来があるとしたら、そこにはどんな社会ができあがっているのでしょうか。