渋谷が目指すべき、リジェネラティブな都市空間へのヒントとその取り組み
<登壇>
水出喜太郎 株式会社日建設計常務執行役員 エンジニアリング部門統括
芹澤孝悦 プランティオ株式会社 代表取締役 CEO
福島果歩 東急株式会社不動産運用事業部 価値創造グループ 文化用途企画運 担当
河野大志 ダイキン工業 テクノロジー イノベーションセンター 脱炭素技術企画担課長
松本賢治 ダイキンHVAC ソリューション東京株式会社 販売推進部長
近年、気候変動、特に夏の猛暑が問題視される中、そのソリューションとして都市空間における緑化や涼のあるデザインが注目されています。
本セッションでは、ダイキンHVAC ソリューション東京株式会社の松本さんをファシリテーターに、東急株式会社で渋谷のビジネス商業施設や広場、河川公園などのアセットの運営、またイベント誘致・企画に携わっている福島さん、lotとAIを活用したスマートコミュニティファームの企画運営などを手掛けているプランティオ株式会社の芹澤さん、これまで積極的に都市緑化事業も推進してきた株式会社日建設計の水出さん、ダイキン工業で脱炭素技術企画を担当されている河野さんが登壇。それぞれの都市における緑化や涼空間への取り組み、またその先にあるビジョンについて、語られました。
福島さんは、東急株式会社で自身が担当している事例として、渋谷区神南の「北谷公園」のリニューアルを紹介。薄暗かった公園を植栽によって見通しのいいスペースに変え、また地域のアパレルショップをはじめとした小売店や専門学校などと連携してイベントを開くなど、グリーンスペースである公園が、神南エリアのカルチャーの発信地として、またコミュニティの醸成の場として一役買っていると言います。
「この夏は、渋谷の公園通り商店街さん主催の打ち水イベントも行いました。北谷公園をはじめ神南エリア数ヶ所で同じタイミングで水を撒き、みんなで涼をとろうというイベントです」。一方、夏の猛暑の時期はイベントが開催しにくく、課題であるとも話し、涼のイベントをひとつの手がかりに、夏場、渋谷の外からも人が快適に安心して訪れられるようなプロジェクトも考えていきたいと話しました。
こうした猛暑や気候変動の問題を受けて、まちづくりや建築への取り組みをお話しされたのが、日建設計の水出さん。特に、リジェネラティブデザイン(環境再生型デザイン:自然や生態系プロセスを模倣し、あらゆる生物にとってより良い状態を目指すデザイン)を取り入れた事例として、まず日建設計が提案しているクールツリーを紹介しました。これは、街の中で森林浴ができる木製の涼スペース。構造物が作る日除け効果、また座るとひんやり冷たいペルチェ素子を仕込んだベンチ、そしてミスト発生装置が取り付けられているのが特徴で、サーモカメラで計測すると、外気温が36.5度あった日でも、この周辺は32度ほどの気温に抑えられていたと水出さんは話します。また、こうした機器を動かすエネルギーは屋根に設置した太陽光パネルで賄っているそうで、「本体の木材も、朽ちてきたら解体してチップにし発電に使える、完全なリサイクル、リユース、そしてリジェネラティブなクールツリーです」。
また、バイオミミックリーという概念を取り入れた、木造の超高層ビルのコンセプトモデルについても紹介。植物の葉のつき方やねじれ構造に目をつけ、効率よく光や風を取り入れられるように設計されたビルで、「将来的には、都心部や地方都市にもこういった10階建て以上の木造ビルができてくるだろうと思います。それに我々もしっかりと実作で応えていきたい」
芹澤さんが代表を務めるプランティオ株式会社は、Jスタートアップにも選ばれている渋谷発のスタートアップ。芹沢さんの祖父は、プランターの発案者・命名者でもあり、芹澤さんご自身も食と農に触れる機会を都心部などで展開されています。具体的には屋上農園。現在、ニューヨークやパリ、ロンドンには屋上農園が多く見られるようになっており、「リジェネラティブなまちには必ずコミュニティガーデンがある」と芹澤さん。また、国によっては、こうした農園をマップで見える化しており、プランティオでもその日本版を制作されています。と同時に、そこには課題もあり「一つは、屋上農園によってどれくらいCO2を削減できたかきちんと計測できていない場合が多いこと。また、野菜栽培を教える人の高齢化が進んでいたり。加えて、気軽にマネタイズする仕組みがないことも大きな課題」。
プランティオでは、その点でlotやAIを活用したツールを制作し、野菜の世話をした人に街で使えるポイントを付与する仕組みも提案。「また昨今我々ががんばって取り組んでいるのが生物多様性の可視化です。生物多様性には、土壌の豊かさが重要。2015年から土壌の良し悪しを偏差値で見る技術を開発していて、実際に土壌が良くなると虫や鳥が来るのが確認できています。結果、(都市の中に豊かな土壌をつくることで)ダイバーシティチェーンが完成して、リジェネラティブな社会になるとも考えています」
ダイキン工業で、脱炭素に関係する技術や事業の企画を担当している河野さんは、都市の涼に関わるプロジェクトとして、この夏、渋谷を中心とした建物の屋上に設置されているエアコンの室外機の空気吸込温度を測定して回り、それを細かく分析しました。いくつかのデータを提示しながら、コンクリートで直射日光が当たる場所と緑化された場所では、大きな温度差があったと話します。「こうした吸込温度は空調機の効率にダイレクトに関わるもの。また大きなビルの場合は、使用電気量、環境負荷にも大きく影響してくることです」とし、室外機周辺の緑化の効果や可能性について説明しました。「渋谷の街の楽しさはそのままに、夏でも涼しく安全に歩けるような涼感都市に貢献していけたら」
セッションではその後、「建物単体で十分な省エネを推進するのは限界もある」というリアルな意見を受けて、事業者が協業してこの問題に取り組む必要性などについて議論され、また、涼空間のための水の効率的な活用法や、一年を通してあまり温度が変わらない地中の環境やエネルギーを活かすといったアイデアについても意見が交わされました。