地域が取り組む、特色豊かな脱酸素化事業とその先にあるビジョン
<登壇>
西村一郎 環境局環境都市推進部長
栗秋寛哉 福岡市環境局脱炭素社会推進部 部長
杉浦篤史 宇都宮市環境創造課カーボンニュートラル推進室 室長
松本紗代子 京都市DO YOU KYOTO?プロジェクト推進課長
千葉稔子 東京都環境局気候変動対策専門課長
佐座槙苗 一般社団法人SWITCH 代表理事
このセッションは、昨年11月、脱炭素社会を目指す環境コンソーシアムとして設立された「CNUD(カーボンニュートラルアーバンデザイン)」による「CNUD SUMMIT」の企画のひとつとして開催されたもの。CNUDの共同事務局である一般社団法人SWITCHの佐座さんをファシリテーターに、脱炭素先行地域を含む5つの自治体の担当者が登壇。各地域での取り組みを紹介しながら、カーボンニュートラルを目指すためのアクションプランについて議論する場となりました。
脱炭素先行地域のひとつである札幌市の西村さんは、一連の取り組みや計画を、地域の課題解決と掛け合わせながら行なっていると話します。具体的には、1972年の札幌冬季オリンピックを機に整備された都市インフラの老朽化に対する、新しい脱炭素先型の設備整備、また、定置式の水素ステーションを設置するなど、水素関係の事業、加えて、北海道大学とのゼロカーボンに向けた取り組みなど。「また、公共施設もZEB(ゼブ:ネット・ゼロ・エネルギー・ビル))化を図ったり徹底した省エネを図ることで再エネにチャレンジするのに加えて、未利用熱、下水道の熱を利用したロードヒーティングも交えながら冬季間のバリアフリーに貢献していくためのインフラ整備も考えています」
同じく、脱炭素先行地域である宇都宮市の杉浦さんは、市が目指すコンパクト型、またネットワーク型の脱炭素モデル都市構築の取り組みのひとつの事例として、昨年の夏に開通したLRT(ライト・レール・トランジット)について紹介。これまで公共交通機関が少なかったJR宇都宮から東側の工業地域や大学のあるエリアを走る次世代型路面電車で、市の中心地と産業拠点、観光拠点を結んでおり、また高齢化・人口減少社会も加味した事業だと話します。なお、このLRTは実質再エネ100%で走行。「再エネ100%で走行しているLRTは世界でも珍しく年間約9000トンほどのCO2削減効果があると見込んでいます」と杉浦さん。
「また、先行エリアとして、ライトレールの沿線を対象に、公共や民間施設それから大学や住宅などに太陽光発電や蓄電池を導入していくような計画もあります。さらに、市と地元の銀行、エネルギー会社が設立した新電力会社「宇都宮ライトパワー」では、例えばゴミ処理施設で発電したバイオマス発電や卒FITを迎えられた方の家庭用の太陽光発電も調達し市有施設やLRTに電力を送る事業も展開、公共交通の脱炭素化としてはEVバスの導入も進めています」
京都市も脱炭素先行地域。担当の松本さんは、市民のライフスタイルをどう転換していくか、市民の巻き込み方、そして行政が有益な情報を発信し、そしてスキームを作っていくことが重要な課題、と言います。
京都市では2年ほど前、京都発脱炭素ライフスタイル推進チームを発足。2050年のカーボンニュートラルの世の中を目指していくために、市民、事業者、中にはお寺の方や農業事業者の方など多様な方々で構成されたチームで、連携し合いながら、多様なプロジェクトを創出・実施してきました。京都にある古着店や信用金庫などが主体となって行なっている古着のリユース事業や、中学高校での環境教育など。「また、京都の三大祭りのひとつ祇園祭の山鉾に点灯する提灯についても再エネを活用しており、こうしたシンボル的なものをまず再エネ、自然由来エネルギーにしながら、市民の皆さまへの行動・意識変容の重要性を伝えていきたいと思っています。加えて、来年度以降は、いろんな事業者さんが参加できるようなプラットフォームの立ち上げも考えています」
福岡市は、2040年度のカーボンニュートラルを目指している自治体。担当者の栗城さんは「国より10年早い野心的な目標。中間目標としては30年度には2013年度比でCO2を50%削減するという目標を掲げて取り組みを進めております」。特に、第3次産業が9割を占める福岡市の特性を踏まえ、家庭部門、業務部門、自動車部門でのCO2排出量削減を目指す取り組みを紹介。「家庭部門の取り組みとしましてECOチャレンジ応援事業。これはいろんなアクションをしていただいた市民の方に交通系ICカードで使えるポイントを付与するというものです。今年度は4000世帯募集しましたが、2ヶ月ほどで定員に達するほど好評いただいている事業です」。業務部門では建築物の省エネを進めるため、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビルディング)/ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の設計費用に対する補助を実施。「自動車部門においては、所有から共有ということで、EVのカーシェアを市有施設の敷地を活用して、事業者と経営連携して行っています」。
加えて、現在、市有施設において、AIを活用した空調機器の遠隔制御によるエネルギーマネジメントシステムの実証も行ない、従来のシリコン型と違い、軽く曲げられるペロブスカイト太陽電池の設置も市内施設に行なっていくと話しました。
東京都の千葉さんは、2030年までの行動変容とCO2 排出量の削減が極めて重要となっている中、東京が世界有数の資源エネルギーの大消費地であるという点からも「東京都も目標達成に貢献すべく、2030年に都内の温室効果ガスを半分に減らすという目標を掲げております」と言い、またその道のりは簡単ではないと話します。「実際に、エネルギー消費量は2000年と比べて約29%削減できているものの、温室効果ガス排出量はまだ4.4%の削減しかできていません。このままの緩やかな変化で迎えられるようなゴールではなく、あらゆる社会構造を脱炭素型に移行させていくということが必要です」
具体的に柱にしているのは、エネルギー効率を最大限に高めていくことと、そして再生可能エネルギーの利用拡大の2つ。「特に、新築の住宅の屋根への太陽光パネル設置義務化については2年前に条例改正し、来年4月から施行となります。これはこれから新築される住宅が2050年の住宅の7割を占めるためです。また、住宅をどのように脱炭素に変えていくかという点では、断熱もキーワード。例えば、現在の日本の戸建ての4割、集合住宅の7割では、窓の断熱が施されていないという状況です。東京都でも補助金の支援を行なっているものの、引き続き課題のひとつだと考えています」
その後セッションでは、異業種とのコラボーションや市民を巻き込む場づくりの重要性についてなど議論が交わされ、渋谷の地で各都市の先進事例に触れられる、有意義な場となりました。