「SIW2023」での学生との連携施策のひとつとして、5月より、文化服装学院ファッション流通高度専門士科の講義『次世代ファッションビジネス』とSIWとの連携プログラムがスタートしています。
これは、およそ半年に及ぶの講義のなかで学生たちが、渋谷の社会課題解決の視座も踏まえながら渋谷のあたらしいお土産を考え、アイデアのプロトタイプを11月のSIWで発表するというもの。
当たり前な存在だった「渋谷」という街をあらためて見つめ直し、調査やアイデア出しを重ね、頭を悩ませながらあたらしいお土産の姿を模索し続けている途中経過の様子を今回はレポート。
また、このクラスで教鞭を執る仲田朝彦先生のお話をうかがいました。
渋谷のお土産づくりで学ぶ、“確実に売れる”よりも大切なこと
2年制のコースが多い文化服装学院にあって、今回コラボレーションを行なっている「ファッション流通高度専門士科」は、グローバルにファッション業界で活躍できる人材の育成に特化した4年制のコース。ファッション流通においてブランドデザイナーからショップ、消費者までの一連の流れをマネジメントしながら、自身で解決課題を見つけ取り組んでいけるようなプロフェッショナルを目指しています。
そのなかでこの『次世代ファッションビジネス』の授業は、座学だけでなく実社会での学びに重きを置いたカリキュラムが特徴。今回もSIWとのコラボレーションにより、学生たちにとってはリアルな現場や社会に近いところでの経験を積むことができる、貴重な学びの場となっています。
この講義を受け持つ仲田先生は、ここで学生たちに学びとってほしい本質的なこととして、このようにおっしゃいます。
「昨今のファッション領域では営業利益率が低いという課題があり、在庫を抱えるリスクへの懸念などから、確実に売れるデザイン、確実に売れるプロダクト、に向かって多くのものが同質化していってしまっていると思います。業界の中で挑戦者が激減しているともいえるんですよね。そこをやっぱり変えていかなければいけないです。
だからこそ今回の一連の授業のなかで学生たちに大切にしてほしいのは、ひとつの企画に心血を注ぐということ。自分の思いをどれだけ企画のなかに込められるかというところは、これからも支援していきたいなと思ってます」
リスクをとってでも、より個性的で思いのこもった“挑戦的”な企画を生んでいくこと。それは学生たち若者にこそ踏み出しやすいことだともいえます。
「確実に売れるような、いわば最適解の商品というのは企業が考えればいいことです。我々の役割はやっぱり挑戦だと思いますし、どんなに偏っていても本当に動機があって生まれてきたものなら、きっと応援者は出てくる、そういうことを学生たちには経験してほしいですね」
学生各グループの中間発表の様子。
1班はお土産と空間コンピューティングを掛け合わせる企画として、カード型のお土産を想定。3D化した自身のアバターがカードから飛び出し、カードを持っている人どうしがつながれる仕組みを模索中。
2班はオリジナルデザインのお土産袋をつくり、渋谷の各店舗が用意したさまざまなお土産をそのなかに集めていく仕組みを考案中。マップを見ながら渋谷駅周辺以外のエリアへも観光客を回遊させる狙いも。
3班は7月から渋谷区でプラスチックごみが可燃ごみから資源ごみへと変わることに着目。渋谷のカルチャーとしてギャル文化を取り上げ、プラ廃材やアパレル業界の残布を用いたスマホケースのデコレーションをお土産体験とするアイデアを構想。
4班は渋谷の社会課題として、治安の改善や、若者以外が楽しめないというイメージの払拭を挙げ、ハチ公のキャラクターを育成できSNS的なコミュニケーションツールにもなるアプリをあたらしいお土産として提案。育成ゲームを楽しみながら、街の良い点や改善点について情報交換ができる仕組みに。
“失敗しない方法”よりも、“挑戦することの価値”を学べる場に
そんななか、仲田先生が学生たちにいちばん期待していることはどんなことなのでしょう。
「今日の中間発表を聞いていて、たとえば自販機前で自撮りをするという流行が韓国から生まれてきている、とか、渋谷に昔からあるギャルの文化に今のZ世代が興味を持っていたりとか、僕としてはなるほどと思わされるのですが、やはり次のトレンドは次の世代から生まれてくるものなので、その感受性にはもちろん期待しています」
その一方で、やはり“挑戦”の経験値が彼らの未来をつくっていくことへの期待も強く感じています。
「この授業を通して、“挑戦するっていいことだな”という成功体験をしてほしいんです。今回SIWに関わって、挑戦することの価値を知った若者が社会人になって、そこでまたさらに挑戦を重ねていけばいくほど、渋谷という単位に留まらず日本という単位で挑戦者が増えていくことにつながります。もちろん今回の授業で渋谷のあたらしいお土産という優れたプロダクトは出してほしいと思いつつも、挑戦した結果、その挑戦自体に価値があると気付き、それが中長期的に身についていくことが、本音ではいちばん期待していることですね」
しかし仲田さんは、学生たちの多くが率先して挑戦できるようになるには、まだ課題も残されていると感じています。
「学校で授業をしていて思うのですが、今の学生はみんな“失敗しない方法”を学びたいという気持ちが強い気がします。新しいものを生み出したいというよりは、ビジネスモデルを勉強したい、だったり、マーケの方法を勉強したい、と思っている。それは社会に出て失敗したくないからですよね。みんなどちらかというと“成功したい”ということより“リスクや失敗を避けたい”ということのために学んでいる学生が多いという印象を受けていて、それは全体的な課題だと思っています」
それは若者たちの失敗を許容しづらい、社会の側の課題ともいえますが、その空気を過敏に感じ取ってしまう若者たちの意識の変革も必要かもしれません。そのために、このような実践的な“挑戦”を体験できる学びの場は非常に有効だといえます。
「正直、これが文化服装学院じゃなければ、僕はそれでもいいやと思えるのかもしれませんが、やはりこの学校では、なにかあたらしいものを創造するために学んでほしいと思っています。ですから無難で確実なものを目指すよりも、文化をつくっていくような気持ちで頑張っていってほしいなと思いますね」
5班のアイデアは、渋谷にまた出掛けたくなる渋谷サンダル =「渋サン」。コロナ禍によるインドア化、オンライン完結によるコミュニケーション不足を課題と捉え、サンダルとテックを掛け合わせることで足元から新たなコミュニケーションを創出する仕組みも模索している。
6班は再生エネルギーに注目。渋谷区のタクシーに乗車した際、運が良ければお守りやモバイルバッテリーなどがお土産としてもらえる仕組みを検討中。
最後の7班は、自動販売機の前で自撮りをする来日観光客が近年多いこと、また、観光情報では知り得ないような情報が地元の人とのコミュニケーションでは得られるということに着目し、多様な渋谷民が街なかのレコメンド情報を、オリジナルステッカーとともに提示してくれる自販機のようなものを考案。
生徒それぞれが、挑戦することの大切さを未来に向けて体得しながらも、この授業の最初のゴールは11月のSIWでの発表展示です。学生たちが心血を注いだ企画は、SIWに来場した大人たちの心にどんなふうに届くのでしょうか。