Long Panel Discussion|ヒトとクルマの豊かな共生社会
Agenda Partner: イーデザイン損保
<SPEAKER>
友澤大輔
イーデザイン損害保険CMO
澤田伸
渋谷区副区長
岡井大輝
株式会社Luup 代表取締役社長兼CEO
財津宜史
笹塚ボウル 代表
平野真由美
渋谷区立鳩森小学校 校長
長田新子
SIWエクゼクティブプロデューサー
一般社団法人渋谷未来デザイン 理事・事務局次長
ニューモビリティで渋谷の何が変わる!?
データを活用した新たな移動が都市に与える影響とは?
このセッションでは、コロナ禍による長期間にわたるリモートワークの期間を通じて、人々の生活にとっての車の在り方や移動の在り方についての意識が変わりつつある中で、安心安全な環境を作っていくためのアイデアに関する議論が行われました。
イーデザイン損保では、現在、事故のない社会に向けて、人々の運転データや社会の様々なデータを組み合わせ、新しい活動やサービスに繋げていく取り組みを行なっています。11月18日に発表される新たな自動車保険「&e」は、自治体と協働し、データから危険エリアをあらかじめ発見するなど「事故を未然に防ぐ保険」がコンセプト。ウェアラブルデバイスから心拍数や睡眠などを計測し、気圧や天候などと組み合わせながら、1人1人の運転データを分析することで健康面からの運転サポートも行なうといいます。しかし、こういった取り組みは、人と人、人と地域、行政との繋がりが必要となるなど、企業だけで実現できることはではありません。
澤田さんは、「人と空間で構成されるものが”都市”であり、交通は人と空間を結びつける移動体。移動体は空間と人を動かすために存在している。移動するという行為は都市にとって重要な要件になっている」と語ります。
都市は多様な個とセクターを包摂する集合体であるべきであり、それらが協働することで良い化学反応が起きるいうのが澤田さんの考え。渋谷区では、行政、企業、教育機関、市民のクロスセクター協働により、地域社会を作っていく取り組みを行なっています。
そのひとつが来年の春に公開予定の「渋谷区CITY ダッシュボード」です。行政データBIのオープン化に向けたこの取り組みでは、例えば、シェアサイクル利用状況データや天候データ、バリアフリーに関するデータなど様々なデータを分析。民間のデータと行政のデータを掛け合わせることで、渋谷が抱える課題を可視化し、また新たなバリューの創出に役立てていくといいます。
自転車シェアリング・電動キックボードシェアリングサービス「Luup」のようなニューモビリティを渋谷区で実現する場合の課題は、移動に関わる利便性と安全性の両面を最適化していくこと。「渋谷区は坂道が多く、モビリティの役割は大きい」と澤田さん。渋谷には狭くうねった道も多いですが、幹線道路沿い以外にも渋谷の街の魅力は多く、それを新しいモビリティの活用によって再発見してもらうことで、地域社会の盛り上がりにも貢献できるといいます。
また渋谷区は、スタートアップ企業との対話に重きを置き、彼らを支援する土壌があります。澤田さんが「のちに続くほかのニューモビリティのことを考えるとLuupの果たす価値は大きい」と述べると、岡井さんは、「基本的には地元や自治体と協力して進めたい。全国的に見てもパッと見危ないものは自治体は触らない。渋谷区はスタートアップを応援する行政だったからこそ、話し合いに参加してもらえた」と述べました。
「ニューモビリティは具体的にどうやって生活者の安全を守れるのか?」という課題に対しては、平野さんが「子供達に小さい頃から交通ルールを守ることを伝えるなど、自分で危機管理能力を高めるように促す必要がある」という認識を示したほか、友澤さんは、「今は、道路よりも駐車場の事故が増えているなど、大人の方が事故に関しての関心が低い場合もある。また、自分の運転技術に対して過信している人もいる」と指摘。財津さんは、「子供は大人の行いを真似する。地域のコミュニティの一員として、まずは大人が交通ルールを守る姿を見せる必要がある」と語りました。
また、澤田さんは、テクノロジーの発達により、自動車の安全性能が上がっていることを例に挙げながら、「自動運転によって無事故の時代がやってくる。また、子供向けに赤信号を通知するようなウェアラブルデバイスが開発されるなど、今はIoTで色々なことができるので、技術によって安全性を確保できる時代がくる」と述べました。
岡井さんは、「交通ルールは明確に正解が存在するものなので、今後IoTデバイスの普及によってもっとルールを守る意識が高まるはず。ルールを守れていないユーザーはそれが明るみになってしまうなど、さまざまな技術の活用法が考えられる」と発言。その一方で、そうなった時のプライバシー保護について社会全体で問題提起していくことも必要との認識を示しました。澤田さんはそのための方法として、「技術によって世の中が便利になることを先に示す必要がある。どういう世界をその技術で目指すかを先に体感してもらい、そこから議論を進めるべき」と述べました。
このような課題を解決していくためには、地域社会に関わる産官学民で共通のアジェンダを持ち、それに向き合う必要があります。そのために今、クロスセクターでデータを活用し合いながら新しい価値を創出していく、ソーシャルキャピタルの強さが求められています。