<SPEAKER>
古川裕也
株式会社電通 エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター
北田静美
NoMaps実行委員会 営業統括
株式会社ウエス チーフプロデューサー
古市優子
Comexposium Japan 代表取締役社長
北村久美子
SIWプログラムディレクター
株式会社AOI Pro. みらい共創プロジェクトリーダー
金山淳吾
SIWエグゼクティブプロデューサー
一般財団法人渋谷区観光協会 代表理事
長田新子
SIWエグゼクティブプロデューサー
一般社団法人渋谷未来デザイン 理事 兼 事務局次長
アイデアやクリエイティビティだけが世の中を変えられる」
これからの都市フェスが目指すべき在り方とは?
「SIW2021 Opening Session」では、株式会社電通 エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクターの古川裕也さん、NoMaps実行委員会の北田静美さん、SIWプログラムディレクターで株式会社AOI Pro.の北村久美子さん、SIW プロデューサーの金山淳吾、長田新子が登壇。世界や日本、そして渋谷の都市フェスの在り方をテーマにトークが行われました。
今年で4回目を迎えるSIWですが、オープニングセッションの冒頭では長田が「4回目を迎えたことで色々な方がSIWのことを知ってくれている人が増えてきたことがありがたい」と発言。
また、今回SIWのエグゼクティヴ・フェローを務める古川さんは、「渋谷生まれで今も渋谷区民で、よく遊んでいたというのが参加させていただいたいちばんの理由です。SIWのことはよく知らなかったんですけれど、カンヌやアドテックのように完成されたフェスティバルではなく、永遠に完成しないフェス、毎年変化し続ける結論のないフェス設定すると渋谷らしいと思いました」と述べました。
古川さんは、「コロナ禍の2年間は、よいアイデアとよくないアイデアがたくさん実行された。そのよくないアイデアがすべてよいアイデアだったら、世の中はずいぶん変わっていたと思う。わかったのは、今世界にはアイデアが足りないということ。」と述べ、「SIWはオーガナイズされすぎないことが魅力だけれど、大きな方向性だけはあったほうがよくて、それが”アイデア”だったということです。アイデアを持っている人たちが集まって議論して、フェスが終わってからも続けてそれを形にしていく。という”広場機能”こそがSIWの本質ではないかと思ったんです」とも述べました。
また、金山は「今年はまだまだコロナ禍が完全に去ったわけではないが、毎週のように渋谷の街でつくりたいシーンについて議論をしている。今年のSIWはそのためのチャレンジでもあり、来年に向けてレガシーを残していけるような1年にしたい」、長田は「これまでのSIWで、ソーシャルデザインに関心のある人が興味や考えを深めるためのプラットフォームになってきたと思う。今年はそういった興味関心をどういう風に成長させていくか。まずは自分自身が一緒に学びを深めることで考えていきたい」と語りました。
札幌を舞台に開催されているカンファレンス「No Maps」は、既にコロナ禍において2度開催されました。今年はオンラインでなく一部でリアルも交えたハイブリッド形式にシフトチェンジしたことで、「来年はどういう風に進化させていこうかと前向きに考えるようになった」と北田さん。
同じくコロナ禍での開催を経験した「アドテック東京」では、今年はオンラインとリアルのどちらかに比重を置くのではなく、両方に重きを置いて開催したといいます。古市さんは「まだみんながマスクを付けて外出する今のような状況だとどうしてもオンラインに人が集まってしまうが、その一方でリアルの来場者の滞在時間は今までで1番長く、その場でのネットワーキングや新しいビジネスを見つけることを目的に参加した人たちの良い受け皿になれた」と語りました。
一方、SXSWやアルス・エレクトロニカのような海外の都市フェスでも、コロナ禍により来場者は軒並み激減。しかし、海外の都市フェスに参加する人の目的は出会いや自分のアイデアを発表したいという人の割合が高いため、例えば、今年のSXSW場合は、実施されたセッション自体はかなり減ったものの、そこに応募する人の数はあまり減っていないのだといいます。
そのような中、たとえばアルス・エレクロニカは通年イベント化し、毎週10本弱のセッションを配信するようになったほか、120の都市と連携してオンラインイベントを行うなど、オンラインで繋がることでリアルでなくとも同じような体験ができる体制を確立。ただ、その一方で身体性を伴うワークショップ型のコンテンツは発信されません。その上で北村さんはこう指摘します。「身体性を伴うコンテンツをオンライン化させることは、おそらく渋谷が世界で1番早く実現している。そのあたりが渋谷の都市フェスの大きな変化だと思う」。
都市フェスを開催する意味や役割は大きく分けると2つあります。1つめはSXSWやアルス・エレクロニカがあることでその都市のキャラクター付けができること。2つめは渋谷のようにすでに文化がある街をさらに発展させること。
その上で都市フェスの活用方法について、古川さんは「渋谷の場合は街のキャラを見せていくために都市フェスを使うのが構造としてはいいと思う。すごいもの、ヤバいもの、まだ始まったばかりのものなどが混在しているような」と述べ、古市さんは都市フェスの開催地の選定基準について、必要なのはイベントを開催するためのスペースだとして、「東京は人口やビジネス規模に対して、イベントスペースが圧倒的に少なく、数千人規模の人数を一気に収容できる場所がない。例えばパリやロンドン、香港だとコンベンションセンターのような大規模スペースが街なかにある。そういう場所が渋谷にもできてほしいし、そういう場所があることでみんなで盛り上がれるのは素敵」と述べました。
一方、さらに世界の都市フェスに目を向けると、メイン会場は郊外にあるものの、ミラノの主要スポットがパビリオン・ディストリクトになっている「ミラノサローネ」などもあります。街全体を使って回遊型にしたことを面白い取り組みだと評価する古川さんは「開催期間中は街の小さなショップなどでも、サローネのシールを表に掲出すれば会場になる。それは渋谷的だと思う。コンベンションセンターのような分かりやすい場所だけでなく、渋谷全体が会場化するところまでいけると。来場者が会場を探して歩くのも遊び心があって、偶発性があることが渋谷らしさになる。SIWは未完成なまま、進化を続けていく都市フェスを目指せばいい」と語りました。
金山もSIWの都市フェスとしての将来像について、「渋谷には小学校や区役所、使える場所がまだまだいっぱいある。例えば街の中にある八百屋さんの中でフードロスについて考える会議が行われたり、アパレルショップの軒先でエシカルな創造についてのアイデアセッションが行われたり。誰でもみんなが発案できてプログラムのオーナーになれるようにしていきたい」と述べました。
そのための課題として、金山は「行政機関の理解」「地域の合意形成」「スポンサーシップの在り方」の3つを挙げます。その中でも「スポンサーシップの在り方」に対しては、「スポンサーは効率面からどうしても人が集まるところに付きがちだが、これからはSIWで生まれるような小さな集積に対して、自分たちがどれだけ投資する価値を持たせていくことができるかが大きな課題になる」と語りました。
これからの都市フェスでは、スポンサーに出資してもらうだけでなく、一緒に街づくりのためのアジェンダをつくっていく姿勢が求められるのかもしれません。そのような協働が実現していくにつれて、都市フェス自体の魅力や意義が、より社会に浸透していくのではないでしょうか。