<SPEAKER>
髙橋忠雄
こくみん共済 coop<全労済>代表理事 専務理事
龍円あいり
東京都議会議員 東京都議会・文教委員会
斉藤貴之
渋谷区議会議員 総務委員会委員長
栗谷順彦
渋谷区議会議員 総務委員会副委員長
児玉知浩
株式会社INFORICH取締役副社長
小池ひろよ
一般財団法人渋谷区観光協会 理事 兼 事務局長
金山淳吾
SIWエグゼクティブプロデューサー
一般財団法人渋谷区観光協会 代表理事
日常生活から「もしも」に備える。ポイントは身近なところに意識を向けること
毎年のように、各地で深刻な自然災害に見舞われる日本。
近い将来に発災の可能性が高いといわれる首都直下地震などのリスクを抱える渋谷も、大地震発生時には帰宅困難者は500万人、食料不足は3400万食、避難生活者が300万人を超えるとの予測もあります。
しかし日常から防災や減災を意識し、備えができている人はほんの一握り。それでは、一人ひとりが災害への備えを自分ごととして捉えるためには、どのような工夫が必要なのでしょうか。
行政、企業、団体…それぞれの防災・減災への取り組み
セッションの冒頭は、スピーカーそれぞれの立場から防災・減災についてどのような取り組みを行っているのかを説明。
髙橋忠雄さんが代表理事 専務理事を務めるこくみん共済 coop<全労済>では、渋谷区と「シブヤ・ソーシャル・アクション・パートナー協定」を締結し、防災・減災の普及啓発を目的とした「もしもプロジェクト」を推進しています。
そのほか、全国の職員に防災士の資格を取得してもらう計画を立てていると説明。防災弱者を助けられる人材を増やしていくと、今後の展望についても語りました。
東京都議会議員の龍円あいりさんは、ダウン症のある息子をもつ自身の経験から、スペシャルニーズのある子ども(障がいがあるなど特別な支援を必要とする子ども)もそうでない子どもも一緒に遊べる工夫がなされた「インクルーシブ公園」づくりを推進しています。そして、その延長線上には「インクルーシブ社会」実現の必要もあると話しました。
「子どもたちに対して、『社会には様々な違いをもつ人がいるのが当たり前』という意識を醸成したい。同時に、スペシャルニーズのある子どもたちも、自ら『こういうニーズがあるので助けが必要です』と訴えられる力を育てることで、助けを求めた際に周りの人が自然に手を貸せる社会になっていくと考えています」(龍円さん)
続いてはスマートフォンのチャージスポットを全国各地の駅や空港などに設置する株式会社INFORICH取締役副社長の児玉知浩さんが、テクノロジーが解決する災害時の課題について次のように話しました。
「災害が起きたときには、正確な情報を素早く受け取れることが重要。INFORICHでは、チャージスポットにあるサイネージを使った情報発信ができる仕組みを整えている。またチャージスポットの存在によって災害時でも安心してスマートフォンを使え、情報収集ができたり大切な人と連絡を取れたりすることが、パニックにならないための一助になるのでは」(児玉さん)
渋谷区議会議員の斉藤貴之さんは「渋谷区に住んでいる人、渋谷区で働いている人、学生など、様々な状況の人に合わせた防災を考え、代々木公園で防災フェスを行うなどしている。今後はより実践的な訓練が必要だと考えている」と、現状の取り組みと課題について話しました。
そして渋谷区観光協会の小池ひろよさんは、力を入れている観光資源開発の取り組みの一環として、区内にユニークなベンチを設置していることに触れ、「渋谷のシンボルが増えることで、災害の際に集まれる場所を作りたい」と語りました。
まずは身近なところから、防災・減災を考える
セッションの終盤、「もしもプロジェクト」に参加する青山学院大学の学生2名の紹介がありました。それぞれの学生にプロジェクト参加の動機を聞くと、「きっかけは『もしもプロジェクト』というネーミングにひかれたから。調べるうちに自ら行動を起こし、情報を取りに行くことが重要なのだと知り、自分も行動を起こしてそのプロジェクトに参加したいと思った」、「2021年に大学生になり、知り合いの少ない渋谷へ日々通うなかで、災害に対する危機感が募った。自分の身は自分で守らなければ命すら危うい。まずは自分が渋谷のこと、防災のことを知ったうえで、家族や友人にアウトプットしたかった」と力強い言葉が飛び出しました。
学生たちの言葉を受けて髙橋さんは、防災・減災を身近に感じてもらうための発信の重要性について話します。
「防災・減災という言葉は固く、非日常を学習しなきゃと構えてしまうので、もっと身近な存在になれるような発信を続けたいと感じた。『もしもプロジェクト』の名前に共感してもらえたとのことだったが、これも防災・減災を身近に感じてもらえる一例。こくみん共済 coopでは防災・減災を気軽に学べる場として『ぼうさいカフェ』という取り組みを2008年から続けているが、防災・減災を学ぶなかに面白さや楽しさがあると良いなと思う。学生さんたちにもぜひたくさんアイデアを出してほしい」(髙橋さん)
続けてSIWエグゼクティブプロデューサーであり渋谷区観光協会代表理事の金山淳吾から「防災・減災というと、どうしても東日本大震災や阪神淡路大震災などの大規模災害が引き合いに出される。しかし、はじめから大規模災害にフルスペックで備えるのは意識として遠く、自分ごと化は大変なのではないか」との問題提起が。
それを受けて児玉さんは、まず自分の身の周りに関心をもつ重要性を説きます。
「身近なところに関心をもつことから防災・減災は始まるのかもしれない。たとえば私の父はホームに入所し車いすで生活しているが、いざというときどうする?と普段から話しておきたい」
また龍円さんは、身近な他人と関わりをもつ重要性についてこう言います。
「渋谷も含め東京は隣人の顔もしらない状況が少なくない。まずはマンション内の人と目を合わせたり挨拶をしたり、声を掛け合うことが大切だと考えている」
さらに渋谷区議会議員の栗谷順彦さんも「渋谷は、すでに物質的な備えやアイデアは数多く出ている。だから今後は、災害に備える“心”や助け合おうという“心”が必要になってくるのではないか」と、気持ちや意識の持ちようがこれからの都市の防災・減災に欠かせない要素であるとの認識を示しました。
どんなにテクノロジーが進化してもそれだけでは意味をなさず、最終的には人と人とのつながりや助け合いが、防災・減災において必要不可欠なものであると改めて気づかされる2時間でした。
もしも災害が起きた際の行動について、家族とともにシミュレーションを行う、マンションで会った人に挨拶をする、といった普段から心掛けられることも、防災・減災の助けになります。まずは自分の手が届く範囲から、防災・減災を考える。それが伝播していけば、災害に負けない渋谷区、災害に負けない東京、災害に負けない日本につながっていくでしょう。