すべての人が自分らしく働く社会へ 「ワークシックバランス」を考える

<SPEAKER>
長谷部健
渋谷区長
關口修平
ヤンセンファーマ株式会社 代表取締役社長
櫻井稚子
Plus W株式会社 代表取締役社長
奥野真由
チーム「ワークシックバランス」メンバー・会社員
金山淳吾
SIWエグゼクティブプロデューサー
一般財団法人渋谷区観光協会 代表理事

“仕事”と“病気”の二者択一ではなく、バランスをとりながら生活できる社会へ

現在、日本で働く人の3人に1人は何らかの疾病を抱えているといわれる中、病気を抱えながら働く人への理解を周囲に促し、病気があっても自分らしい働き方が当たり前にできる社会が求められています。

このセッションでは、渋谷区長の長谷部健さん、ヤンセンファーマの關口修平さん、Plus Wの櫻井稚子さん、「チームワークシックバランス」の奥野真由さん、SIWエグゼクティブプロデューサーの金山淳吾が登壇。病気があっても自分らしい働き方が当たり前にできる未来を目指す「ワークシックバランス」の考え方について掘り下げるとともに、これからの社会の中にこの考え方をどうやってインストールしていくかについて、議論を行いました。

ヤンセンファーマでは、IBD(炎症性腸疾患)を抱えながらも「自分らしくはたらく」ことを後押しする「IBDとはたらくプロジェクト」の活動の一環として、IBDをはじめとした病と仕事の両立を目指し、「ワークシックバランス」を提唱しています。

關口さんはそのコンセプトの背景について、「社会では実際に色々な人が病を抱えながら仕事をしているという背景があり、それを踏まえて、病と生活のバランスをしっかりと取りながら仕事をしていくというのがワークシックバランスの考え方だ」と説明します。

国内では29万人もの人がIBDを抱えており、これからキャリアをスタートする10代~20代に好発することが知られています。ひとりひとりが自分なりに社会貢献できる環境を作っていくためにも、企業の経営者はワークシックバランスについて考えていく必要があります。その上で、關口さんは経営者の視点からこう語ります。

「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンは、全員が自分らしく、社会に貢献するという考え方なので、ひとりひとりの価値を最大限まで伸ばせることは、ビジネスとしても良いことだと思う。仕事と病気の二者択一ではなく、両方できるという思考が大切。また、企業としてダイバーシティを尊重する場合、経営者は性別だけでなく、考え方についても多様性を持って人を集めるなど、会社組織に社会を反映していく必要があるが、特にヘルスケアの領域ではそれが求められる」

櫻井さんは色々な働き方をデザインをする立場から、今後人口が減少していく日本では、“時間で働く”のではなく、“能力で働く”ことで社会や企業に貢献することが非常に重要になってくると指摘。「多種多様な病気や障がいを持つ人から働きたいという相談を受けるが、大事なのは働く意欲があるかどうかで、企業はそこを一番に考える必要がある。人件費をコストではなく投資だと考え、能力を持っている人をどのように活躍をさせていくかに着目すると、疾患を持っていたり、通常とは異なる働き方であったとしてもウェルカムになる。これからは企業が多様な働き方を提案していかないと成長していくことはできない」

ダイバーシティ&インクルージョンを推進していく場合、行政が声をかけていくことも大きな役割を果たします。その上で病気や障がいを持つ人が働きやすい環境を作るために行政はどのようなことができるのでしょうか? その問いかけに対し、長谷部さんはこう答えます。

「渋谷区では、シブヤ・ソーシャル・アクション・パートナーとして色々な企業や大学と連携しているが、そういったところに対して広報したり、課題について話しあうことは当然できる。そのためにもっと知見を増やして、連携の輪を広げ、課題をもっと掘り起こしていきたい」

また、病気を抱えながら働くために、持病を持っていることを会社に対してカミングアウトすることについても意見交換が行われました。クローン病という難病を抱える奥野さんは、病気のカミングアウトに関しては、自分が苦しくならない選択をするのが一番だという考えを示します。

「コロナ禍で働き方が多様化したことで、自宅で働けるなど病気をカミングアウトしなくても働ける環境が整ってきた。また、体調が安定しているのであれば、病気をカミングアウトしないという選択肢もあると思う。ただ、もし病気のことをオープンにして働きたいのであれば、『こういう症状が出る』などといった事実と、『こういうサポートがあればこんなことができる』という自分の強みをセットで伝えることができると、病気を抱えている側としては少し働きやすくなるはず。自分と会社が、お互いに良い塩梅の向き合い方を探していけるといいと思う」

長谷部さんは「これからもっとみんなの意識が変化すればいい。ただ、まだ途上だからこそ『ワークシックバランス』という言葉が生まれているのだと思う。その意味ではいよいよスタートラインに立ったところなのかなと感じている」と語りました。

今後は、渋谷の街やそこに集まる人々が、ワークシックバランスのような考え方をダイバーシティ&インクルージョンの1つの大切なポリシーとして捉えていくことで、渋谷らしいより多様な働き方が実現していくのではないでしょうか?