ヒトと都市を拡張するメタバースの可能性

<SPEAKER>
中馬和彦
KDDI株式会社 事業創造本部ビジネスインキュベーション推進部長
明石ガクト
ワンメディア 代表取締役
AMIAYA
モデル/DJ/jouetie クリエイティブディレクター
長田新子
SIWエクゼクティブプロデューサー
一般社団法人渋谷未来デザイン 理事・事務局次長)

バーチャルの世界でも大切なのは、ヒトも都市も自分たちのアイデンティティが評価されること

最近では40万人以上を集客したハロウィーンイベントが開催された「バーチャル渋谷」など、バーチャル空間内で人々が集い、交流できるメタバースに注目が集まっています。

このセッションでは、KDDIの中馬和彦さん、ワンメディアの明石ガクトさん、モデルのAMIAYAさん、SIWエクゼクティブプロデューサーの長田新子が登壇。今後のメタバースと渋谷の関係やその可能性、活用方法などについて、トークセッションを行いました。

中馬さんは、メタバースの定義について、「メタバースとは、要約すれば、インターネット空間にある3Dグラフィックで表現された場所にアバターで入れて双方向でコミュニケーションできるもの」と説明。現在、一般的によく知られている例として、『フォートナイト』、『あつまれ どうぶつの森』のようなゲームの名前を挙げます。

また現在は、音楽ライブ、ライブ配信、アバターを使いながらバーチャルとリアルの両方で活動するK-POPアイドル、NFTオークションなどでのメタバースの活用事例が増えていますが、今後はオフィスワークもバーチャル空間に移行していくことが考えられるといいます。

明石さんは、そのような流れがあることで「インスタ映え」のような現在のネットカルチャーなどを含め、今後は全てがメタバースで統一される可能性があると指摘。そうなれば世の中が変わると予想します。

AMIAYAさんは、そのような未来について「バーチャルの世界とリアルの世界がつながっている世界観は自分たちのブランドでもやっていきたい。バーチャルで作るとサンプルの無駄がでないから、サステイナビリティの面で注目している」とメタバースのサスティナブルな面にも言及しました。

現在は、誰でもInstagramやtiktokを利用することでクリエイターになることができる時代ですが、明石さんはメタバースにより、今後、クリエイターとユーザーの垣根はさらになくなっていくと予想します。

AMIAYAさんは、「チャンスが誰にでも平等に広がっていくのは良いこと。これまではチャンスを掴むために地方から東京や海外に出る必要があったが、そういった場所という概念は今後はさらになくなっていく」と語ります。
一方で、明石さんは「今のクリエイターは、東京に来なくても自分が作ったコンテンツを流通させることができる。ただ、メタバースの普及で場所性がさらに問われなくなるのであれば、これからライバルはさらに増えていく。プロは気を引き締める必要がある」と述べました。

「今後はグローバル企業がメタバースを吸収していくのか?」というテーマでは、大きなプラットフォームが発展していくことになるという意見がでましたが、明石さんはこうもいいます。
「今は全てのプラットフォームが個人をエンパワメントする方向に動いている。少し前とはことなり、人がコンテンツになった今の時代は、プラットフォームではなく、クリエイターにコミュニティ、ファンがついていて、今後は個人が企業化していく。そういう人がいろいろなプラットフォームで活躍できる個人最適化の時代がやってくる」

AMIAYAさんは、今後のメタバースと渋谷の関係についても言及します。
「プロと素人の垣根はないが、その中で活躍し続けるには自分たちのアイデンティティ、個性が評価されていかないといけない。同じことは渋谷にもいえる。そういう表現ができないとデジタルの世界では生き残っていけない」

中馬さんもバーチャル渋谷について、「渋谷をキーコンプトに仮想空間を作ったが、その理由は何かが広がるにはオンリーワンな魅力が必要だと考えたから。動画配信の先に新しい空間の何かが始まるとしたら、渋谷のような場所しかないと思った」とメタバースにおける渋谷の価値を示しました。

また、トークセッションでは、今後メタバースの中でやってみたいことについてもトーク。バーチャルの渋谷の住民票を作って、NFTで売ってみる、渋谷をピンクにしてみたい、渋谷全体をアート化するなど、バーチャルならではの意見が続出しました。

その中で明石さんは「今のクリエイターは完パケではなく、他の誰かが真似できて、それで遊べるものを作れないといけない。インターネットに作品を投稿する人を増やす仕掛けを作る人が残っていく。スマートフォンにしてもメタバースにしても個人の可能性を広げている中で、誰か1人だけが活躍する必要はない。それよりもみんなが遊べるルールを作る人が必要なのではないか?」との意見を述べました。

現在、バーチャル渋谷ではプロのアーティストを中心にライブが行われています。しかし、それはメタバース普及の着火剤にしたいとの考えがあるからです。その上で、中馬さんは「将来的にはUGCにしていきたい。リアルの渋谷の街には、特別な目的がなくてもみんなが集まって、色々な交流が生まれている。そういう空間にしたいからバーチャル渋谷の使い方に関してはこちらで決めるようなことはしない。リアルの渋谷の街は、”こういう街です”と定義されていないけど、勝手に”そういう”街だとされているように、バーチャルの渋谷もなっていけばいい」と述べました。

今後はメタバースの渋谷にもリアルの渋谷と同じように多様な人が集まれば、そこでも様々な文化やコミュニケーションが生まれるはずです。そして、そこで生まれたものがリアルの渋谷にも還元されるようになれば、リアルとメタバースが双方向的に機能する新たな渋谷の価値が生まれることになるのではないでしょうか。