Long Panel Discussion
「Respect is knowing スポーツと女性のこれから」
<SPEAKER>
岡島喜久子
公益社団法人日本女子プロサッカーリーグ チェア
荒川恵理子
ちふれASエルフェン埼玉
田中美南
INAC神戸レオネッサ
今田素子
株式会社インフォバーングループ本社代表取締CEO
藤森三奈
株式会社文藝春秋 スポーツ・グラフィック ナンバー編集部 メディア・プロデューサー
松岡けい
DAZN JAPAN Vice President Communications & PR
長田新子
SIWエグゼクティブプロデューサー
一般社団法人渋谷未来デザイン 理事・事務局次長
日本の女子スポーツ界の現状と未来について熱く意見交換
近年、DEI(ダイバーシティ:多様性、エクティ:公平性、インクルージョン:包括性)という言葉を耳にする機会が増えています。
2020年にアメリカで始まり世界的なムーヴメントになったBlack Lives Matterでは、特にスポーツ選手やアスリートがSNSで積極的に意志の発信をしたことを記憶されている方も多いでしょう。
このようなDEIの世界的な動きがある一方で、スポーツ界においては大きな男女格差が存在します。
本セッションは、「Respect is Knowing スポーツの女性とこれから」と題し、リーグと選手、そしてそれを報じるメディアのキーマンが登壇。
女性スポーツ選手をとりまく環境の現状、メディアの役割、そして未来について、闊達な議論が交わされました。
世界的に女子スポーツのメディア露出が少ないという課題
日本初の女子プロサッカーリーグ「WEリーグ」の発足を受け、チェア、選手、メディアから6人のキーマンが集まった本セッション。まずは松岡けいさんがDAZN独自のリサーチとして女子スポーツの現状をプレゼンテーションしました。
「アメリカのスポーツファンの93%が男性スポーツしか観ていません。しかし、その層の63%は女性スポーツにも興味を持っています。では、なぜ観ていないのか? その理由は3つあり、『選手やチームのことを知らない』『見る機会が少ない』『どこで試合が観戦できるかわからない』。現在、DAZNでは女子サッカーのチャンピオンズリーグを配信しており、徐々に観戦できる環境は整えているが、まだまだ露出が足りない。アメリカでのスポーツカバレッジで女性スポーツの割合はたったの4%で、日本のDAZN露出数のみですが、2020年は0.03%。2021年は0.07%という数字が出ました」(松岡さん)
この数字にスピーカー全員が「こんなに低いの?」と驚きとショックのコメントを残します。続いて、藤森三奈さんは雑誌「Number」の表紙についての興味深いデータを発表します。
「これまで『Number』は1040冊出していますが、特定の女性アスリートが表紙を飾ったのは36冊しかありません。オリンピックで活躍したアスリートが表紙を飾る例が多く、浅田真央さんが8回。なぜかというと、浅田さんは人の心を動かせる選手だから。感動の与え方に性差はないはずですが、やはり男性選手が多くなっています」(藤森さん)
DEIの動きは盛んになっていますが、スポーツ界ではメディアの露出が少なく、一般の生活者には情報が届いていない現実が浮き彫りになります。「サッカーのことは詳しくないが」と前置きして、今田素子さんはメディアとのリレーションシップの重要性と喫緊性についてこのように言います。
「メディアの責任も大きいですよね。この現状を変えるには、メディアも意識して女性を起用しないといけないし、リーグ側もスター選手を生み出すために様々な切り口でメディアに取り上げられるよう工夫しなくてはいけない」(今田さん)
「WEリーグ」は9月に開幕したばかり。まだまだ注目されていない現状について、現役2選手も参加して、メディア側と意見を交わしていきます。
期待を集める「WEリーグ」、今後の戦略とは?
現役WEリーガーの荒川選手と田中選手は、プロ選手になって変化したことをこのように語ります。
「プロリーグになって、お金をいただいてプレーをする意識が強くなりました。より魅力のあるプレーをしたいと思っています」(荒川さん)
「プロになったことで、別の仕事をしなくていいのでサッカーに集中できる環境が整いました。プロフェッショナルとは何か?ということについて模索を続けています。集客のために積極的にSNSで発信することを始めたり……」(田中さん)
と、自身の意識や練習環境の変化についてはポジティブな発言がありましたが、周囲は大きく変化したとは言い切れない状況のようです。
「以前のなでしこリーグがプロリーグだったと勘違いしている方が多く、『WEリーグ』が初の女子プロサッカーリーグだと、あまり認識されていない」(荒川さん)
「サッカー業界にとっては、女子プロリーグの発足はすごく大きな出来事だったので盛り上がりましたが、サッカー業界以外ではあまり知られていない印象です」(田中さん)
このような現状を聞き、松岡さんも問題提起をします。
「どうしても女性アスリートやジェンダーの切り口で取り上げられやすい傾向にあります。男子と女子と区別することなく同じ“サッカー”として見てほしいと思う」(松岡さん)
まずは人々に認知してもらう段階であり、どのようにメディアに取り上げてもらうか?メディア側の視点として、「切り口を増やすこと」を藤森さんが提案します。
「どんどん選手から情報発信してほしいし、自分をさらけ出してほしい。そうすることでサッカー以外のメディアも興味を持つし、接点が生まれてきます。そして、ストーリーが生まれてくると多くの人が興味を持つようになると思います」(藤森さん)
さらに選手からの情報発信の重要さは認めつつも、リーグや所属チームの広報機能のメディア戦略も非常に重要だと今田さんが補足します。
「リーグとしてチームとして、どのようにスター選手を生み出すか? どのようなメディアに露出するか? といったメディア戦略やイメージ戦略も重要。選手はパフォーマンスで表現するのは得意でも、自分から発信するのは苦手な人もいる。選手と広報機能の連携強化は必ずやってほしい」(今田さん)
オリンピックなどの世界的イベントで好成績を残すとメディア露出は増えるものの、一過性のものにとどまってしまう。しかし「WEリーグ」発足に伴い、どのようにスポーツ界において女子サッカーの認知度、注目度を高められるのか? という最初のハードルについて、メディア視点、選手視点、リーグ運営側の視点で実に多様な意見が交わされました。
リーグも選手もメディアもサポーターもこれから一緒にリーグの歴史を作っていく。そんな可能性にあふれた光景が見えた貴重なセッションでした。