<SPEAKER>
佐久間洋司
2025年日本国際博覧会大阪パビリオン推進委員会 ディレクター
玉城絵美
H2L, Inc.,CEO
琉球大学工学部 教授
金山淳吾
SIWエグゼクティブプロデューサー
一般財団法人渋谷区観光協会 代表理事
リアリティをシェアリングした先にある私の幸福、私たちの幸福
腕に装着したデバイスからの電気信号で手や指の動きをコントロールし、コンピュータ上の楽譜に合わせて、楽器を演奏させる。また、今まで感じられなかった仮想空間での重さや手触り、抵抗感、身体的な位置感覚を現実世界でも感じられるようにする。そのようなデバイスの開発、またそれを通じて(これまで共有が難しかった)固有感覚(身体の位置や動き、重さや抵抗など力に関する感覚のこと)を他人とシェアする「ボディシェアリング」の研究を進めている方がいらっしゃいます。起業家兼研究者の玉城絵美さん。彼女は「その固有感覚が再現できると、VRやARと比べて50%ほど体感が向上すると言われています。こうした感覚をシェアすることで、人は身体的、時間的、空間的な制約から解放されるかもしれません」と言います。
このセッションでは、玉城さん、そして「人類の調和」をテーマに研究し、2025年日本国際博覧会大阪パビリオン推進委員会のディレクターも務める佐久間洋司さんが、新しいテクノロジーによって多様になっていくだろう、私あるいは私たちの“体験”、またリアリティのあり様ついて、意見を交わしました。
佐久間さんは、重要な社会課題を含む7つの目標に対し、挑戦的な研究開発を推進させる国のプログラム「ムーンショット型研究開発事業」の「ミレニア・プログラム(新たな目標検討のためのビジョン策定するプログラム)」に採択された21の研究チームのひとつをリーダーとして率いてきました。その研究課題は「人類の分断を克服し調和を実現するための科学技術に関する調査研究」。「分断を克服する。(デジタル空間でも)フィルターバブル(アルゴリズムにより各ユーザーが見たくないような情報を遮断し、自分の見たい情報しか見えなくなること)などの課題もある。科学技術は人類の調和に向けて何ができるのか、SFプロトタイピングや、学識者・有識者100人の方にヒアリングしながら、2050年へのロードマップを描いてきた」
それぞれ「誤解やギャップを生み出しやすい言語の本質」「ボディシェアリングのスポーツや擬似訓練への応用的可能性」「体験や価値をシェアリングする一方で生まれてくる新しい分断」「目指すべき幸福な世界(リアリティ)のかたち」についても活発に議論。
どんな未来を実現したいと思っているかという問いに対しては、「(分断を解消するために)一番楽なかたちは(個別最適化の最たるもの、幸せなまま個々人が分断された)“ひとりマトリックス”。私にとっての幸せな、閉じ続けたリアリティを生きることかもしれない。ただ、『私』というものは、他者と相互作用することで更新されてきた。私の幸福と私たちの幸福、私のリアリティだけでなく、私たちのリアリティも作っていくーー(その複雑な組み合わせを広く捉えながら)調和と呼ぶ未来に少しでも貢献していきたい」(佐久間さん)
「我々の研究グループが目指すのは、マルチスレッドライフスタイル。たくさんの生き方を平衡的に生きる。バーチャルを含めて、広がっていく複数の世界を、一つの個人としてではなく、(複数の個人として)並列して生きる。バーチャルにも自分がいるし、リアルなどこかにも自分がいる。それを認めることで“生きる”を加速し、自分の多様性を広げていけるような世界になればいい」(玉城さん)