【第一部】「医療」×「衣料」が作る未来〜課題解決としてのファッション〜
<SPEAKER>
軍地彩弓
編集者・ファッション・クリエイティブ・ディレクター
坂野世里奈
株式会社アダストリア マーケティング本部マネジャー
Play fashion! for ALL プロジェクトリーダー
土屋美寿々
ヤンセンファーマ株式会社 コミュニケーション&パブリックアフェアーズ部 マネージャー
【第二部】乾癬患者さんの声から生まれた「FACT FASHION」
大塚篤司
近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
山下織江
一般社団法人INSPIRE JAPAN WPD乾癬啓発普及協会 理事
玉井秀樹
株式会社MAISON SPECIAL
誰もが自由にファッションを楽しめる時代へ。
課題解決方のファッションのあり方とは?
課題解決のための服作りをテーマに掲げるプロジェクト「Play fashion! for ALL」と、慢性の皮膚疾患である乾癬の理解と認知向上を目指す衣服ブランド「FACT FASHION」。“医療×衣料”という課題解決のかたちは同じですが、それぞれのプロジェクトがどのようにスタートをしたのか? 当事者である坂野さんと土屋さんがその想いを語ります。
「『Play fashion! for ALL』は、“すべての人が、ファッションをもっと楽しめる社会を創る”をコンセプトに、社内の新規事業公募から始まりました。実は私の父の介護体験がベースになっています。元気な頃はファッションを楽しんでいた父が、他界する直前は着替えやすい服ばかり着るようになっていた。父らしくないと感じた思いから、介護や疾患をお持ちの方でも楽しめるファッションを提供できないか、と考えたのがきっかけです」(坂野さん)
「我々は医薬品会社ですが、患者様の悩みを突き詰めて考えていった結果、ファッションに行き着きました。乾癬患者様の衣食住の悩みをリサーチすると、衣料に関するストレスが69%ともっとも高かったんです。衣服にフケや血が滲むとか、ボタンの着脱が難しいといったことの精神的なストレスが大きいとわかりました。お薬を届けるだけでは解決できない課題をしたいと思い、アパレル企業の中でも社会課題解決に積極的であった株式会社MASION SPECIALさんと組ませていただき、『FACT FASHION』をスタートさせました」(土屋さん)
ファシリテーターの軍地さんは、これまでアパレル業界の多くのブランドでは、ビジネスの観点から最大公約数に向けた企画がメインだったことを指摘。同時に坂野さんも「デザインやサイズはブランド側が決めることが多かった。これからはファッションを楽しむことに課題を感じている方にも寄り添っていかなくてはいけない」と同意します。
ダイバーシティ&インクルージョンが当たり前となってくる現代において、日本国内で4〜60万人とも言われる乾癬患者の数をどう捉えていくか? は、ビジネスの視点でも重要であることを軍地さんが指摘し、第1部は終了となります。
第2部では、大塚さんから、いまだに乾癬の根治療法が見つかっていないという現状や、患者の方は無意識に行動を制限してしまうということ、また、医師ではファッションの悩みを解決できないということを説明。また患者視点での悩みについて、山下さんが自身の体験を交えながら、いかに精神的なストレスが大きいかを語ります。
「私は10代の頃に発症して、頭皮からフケが出るようになりました。学校の制服が紺色でフケが目立つのがすごく嫌でした。ファッションもノースリーブやスカートを履きたいのですが、肌が見えないようなものを選んできました。世の中には偏見がまだまだあるので、どうしても自尊心が低くなってしまいます」(山下さん)
服は、毎日の心のありようが反映されるもの。明るい色を着れば気分も明るくなるように、自分らしいファッションを楽しめれば自己肯定感も増してきます。しかし、乾癬患者の方々は世間からの視線からの遠慮、もしくは衣服の構造上の問題による痒みや痛み、出血などの問題からそれが実現しづらい状況にあります。
「患者様と色や素材、締め付け、着脱のしやすさについてなど、何度も話し合いをしてきました。例えば、首の後ろの部分はナイロン素材にして、フケや鱗屑を払いやすくしたり、と何度も改良を繰り返しました。しかし、機能性だけを追求しても意味がない。機能をいかにデザインに昇華するかがテーマとなりました」(玉井さん)
第2部のスピーカー3名はFACT FASHIONのアイテムを実際に着て登壇。考え込まれたディティールや機能、デザインへのこだわりなどのポイントを、実際の商品で紹介しました。
今回は、乾癬患者の方々に向けた“医療×衣料”のプロジェクトが紹介されましたが、これに限らず、事情があってファッションを自由に楽しめない方のための取り組みは、今後どんどん広がっていく、そう予感させてくれるパッションに溢れたセッションとなりました。