住んでいる方のウェルビーイングを実現する各自治体のスマートシティへの取り組み
Long Panel Discussion
SCI × データコンソーシアム「スマートシティってなに?」
<SPEAKER>
澤田伸
渋谷区副区長
室井照平
会津若松市長
頼重秀一
沼津市長
南雲岳彦
一般社団法人スマートシティ・インスティテュート専務理事
三菱UFJリサーチ&コンサルティング専務執行役員
小泉秀樹
一般社団法人渋谷未来デザイン 代表理事
スマートフォンの普及以来、日本でも様々な商品やサービスが急速にデジタル化をしています。企業が急速に進めるデジタルトランスフォーメーション(以下DX)はもちろん、政府もSociety5.0を掲げており、我々のライフスタイルもデジタルが前提のものに変貌しつつあります。
全国の自治体や都市も例外ではなく、住みやすく、快適な「スマートシティ化」に取り組んでいる自治体が多く存在します。
耳にする機会が増えた「スマートシティ」ですが、どのような“まち”がスマートシティと言えるのでしょうか?
本セッションでは、渋谷区副区長の澤田伸氏、会津若松市長の室井照平氏、沼津市長の頼重秀一氏といったスマートシティの実現に邁進している現役の首長の皆さんに加え、日本のスマートシティの拡大と高度化に貢献するための団体である一般社団法人スマートシティ・インスティテュートの専務理事である南雲岳彦氏を迎え、小泉秀樹氏(一般社団法人渋谷未来デザイン 代表理事)のファシリテートのもと、スマートシティの意義や定義について、2時間に及ぶ議論が展開されました。
多様化するスマートシティの取り組みで共通する市民のウェルビーイング
セッションの前半は、スピーカーの自己紹介を兼ねて、各自治体のスマートシティへの取り組みが紹介されました。
先陣を切った渋谷区副区長の澤田氏は、デジタル化はあくまで手段であることを強調しながらこのように発言します。
「スマートシティを考えたときに、“スマート”にフォーカスされすぎている感があります。つまりデジタル化とデータ活用です。我々は本当にスマートを追求するべきなのか?から議論をしており、“シティ”を追求しようとしています。つまり“人と空間”です。あくまで住みやすいまちを創造する上での手段としてデジタルがあるわけで、それを忘れてはいけないと思っています。スマートシティではなく、シティスマート。そして、シティグッドを経て、最終的にシティプライド。住んでいる方々が誇りを持てるようなまちづくりを目指しています」(澤田氏)
さらに渋谷区で進めているスマートシティを構成する4つの要素である、コミュニティ、コ・ラボ(Co-Lab)やスタジオ、都市OSとテクノロジー、ソーシャル・キャピタルを挙げ、スタートアップ企業が2000社以上オフィスを構えていること、市民共創型オープンサービスである「Shibuya good pass」、「388Farm」、官民産学連携のS-SAP協定などの多様な取り組みを紹介。
その発言を受けて南雲氏は、世界各地のまちづくりの事例を紹介しながら、マズローの欲求6段階説を例に挙げ、スマートシティのテーマとして「市民のウェルビーイング(幸福度)をどのように向上するか」が重要であることに同意しました。
室井氏は、官民産学が交流してオープンイノベーションを促進するオフィスビル「スマートシティAiCT」やデジタル観光コンテンツの「Visit AIZU」、ポータルサイト「会津若松+」などの事例を紹介。その上で次の構想をこのように語りました。
「ICT関連企業の誘致、デジタル人材の育成、都市OSの構築の土台づくりがようやくできてきました。このようなスマートシティの取り組みを通じて、オプトインやパーソナライズの重要性が地域全体の共通認識となっています。次の段階で市民のウェルビーイングを意識して、“スーパーシティ”を実現させたい」(室井氏)
沼津市長である頼重氏は、「まだまだこれから取り組みを始める段階」と前置きしながら、地域創生施策としてのリノベーションまちづくりや日本フェンシング協会と包括協定を締結したフェンシングを通じたまちづくりなどを紹介しました。
ひと中心のまちづくりがスマートシティ
各自治体の人口や規模、気候などの地理的条件、課題は実に様々です。同時にスマートシティへの取り組みも自治体の特色を生かしており、多種多様です。しかし共通しているのが、住んでいる方々のウェルビーイングを最重要視している点。何のための、誰のためのスマートシティか? という小泉氏の問いに対しても皆さんの答えは決してブレません。
「すべての自治体がスマートシティを目指さなきゃいけないし、定義や文章構成は異なれど、住みやすいまちづくりを明文化しているはずです。どの自治体も住みやすいまち、誇りが持てるまちを目指しているのは一緒のはず」(澤田氏)
また南雲氏はこれまでの都市の変化に言及しながら、現在はひと中心のまちづくりが行われていると主張します。
「スマートシティを実現するのはテクノロジーではなくて、人。世界中でも起こっていることですが、人中心に変革が起きている。これは歴史上からみても面白い変化で、過去には宗教を最適化した宗教都市があったし、政治や権力を集中させた城下町もあった。さらに商業都市もあった。それが現在ではひと中心になっていて、それがスマートシティにつながっている」(南雲氏)
そして、議論はスマートシティの在り方から、誰が担うのか?人材はいるのか?という問いに変化していきます。澤田氏は自身が民間からの登用だった経験から、行政はもっと積極的に在野の優秀な人材を獲得すべきだと主張します。
「外からの人材を登用していかないとトランスフォーメーションが起きません。特に日本の行政、自治体は人材の流動性が非常に低い。ヨーロッパでは、行政が民間企業よりいい待遇でスペシャリストを雇う例がありますが、日本は民間企業より待遇を低くしないといけない。では、どのように人材を獲得するか?民間ではで経験できない大きなプロジェクトとか、次につながるキャリアなど働くこと自体のバリューを上げていくしかないと思っています」(澤田氏)
各自治体でも民間からキーマンを招聘しながらスマートシティへの取り組みを行なっていますが、官民産学のより密な連携が不可欠であることは、登壇者の皆さん一様に同じ見解でした。
さらに「スマートシティ施策も市民に利用してもらなくてはまったく意味がない」という発言もあり、デジタルリテラシーの向上や広報分野にも話題が移りましたが、残念ながら2時間のタイムアップが訪れました。
今回参加いただいた自治体は「住みやすいまち」「市民のウェルビーイングの実現」を深く追求していました。答えはひとつではなく、まだまだ事例が少ないスマートシティの在り方ゆえに、各自治体の首長クラスが集まり、スマートシティの在り方を議論したこの2時間は、非常に有意義なものとなったのではないでしょうか。