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マイノリティの視点が活かされるからおもしろい ——「世界をちょっとSLOWに」【SIW2019レポート】

開催: 9.19(木) 渋谷ヒカリエ 8/COURT

“多様な未来を考える12日間”「ソーシャルイノベーションウィーク渋谷」
https://social-innovation-week-shibuya.jp/2019/

DIVE DIVERSITY SESSION
「世界をちょっとSLOWに」

2019年9月19日(木) 15:45〜16:30
渋谷ヒカリエ 8/COURT
<登壇>
パラ・クリエイティブプロデューサー/ディレクター
SLOW LABELディレクター
栗栖良依

「学生時代から平和活動を意識し、将来的には創作活動でそれに関わりたいと思っていた」
そう語った栗栖良依さんは、リレハンメルオリンピックの開会式を見て、オリンピックこそがその夢だと気づきました。

しかし、2010年に骨肉腫を患い右下肢機能全廃の障がいを背負ってしまった栗栖さん。「いつ来るかわからないオリンピックの夢にかけられない」と夢を諦め、障がい者としての自分だけが残ったといいます。



ただ転機は2011年に訪れました。その年、障がいを抱える人とアーティストたちとでものづくりを行う「SLOW LABEL」のディレクターに就任。そこでの気づきはスローマニファクチャリング。「大量生産にはできない障がい者による自由なものづくり」の魅力だと栗栖さんは語りました。

ものづくりにおいて障がいのあるなしは関係ない。自分の得意なことで参加して貢献する。
障がい者というと弱者といったようなイメージがあるが、実際はすごくうまく作業できる。そんな見方の変化もあったといいます。

2014年には障がい者と多様な分野のプロフェッショナルによる現代アートの国際展「ヨコハマパラトリエンナーレ」を立ち上げ、総合ディレクターとして関わることに。
突出した感覚とその分野のプロフェッショナルが協力することで何か新しい価値が生まれる。そういったイベントを開催する過程で気づいたことを社会に還元することを目指しました。



その一方では大きな課題も。
栗栖さんが見たロンドンパラリンピックの開会式は「実に多様な人々が参加していて、障がい者がフィールドを埋め尽くしていた」といいます。だからこそ、東京でもできるはずだと考えました。しかしこの時、日本の障がい者を取り巻く環境が抱える、ある問題に気づきます。

「障がい者とコラボレーションをするとそれまでになかった発見がある。それを創作、パフォーミングアートに変える。そのためにその分野のプロフェッショナルを招待してワークショップを開催しましたが、障がい者の参加は少なかった」と当時を振り返る栗栖さん。

そこには障がいを持った方たちの前に立ちはだかる物理的なバリア、精神的なバリア、情報のバリアがあったといいます。それにより日本にはクリエイションのスタート地点に立てるプレイヤーがいない、という課題が浮き彫りになったのだそう。

そして、2015年に環境を変えるべく「スロームーブメント」プロジェクトを立ち上げ。障がい者が表現者となることを諦めない環境づくりへの挑戦が始まります。
さらに2016年にはリオ・パラリンピックの閉会式・旗継ぎ式に参加。日本の障がい者によるパフォーミングアートに関わりました。

「移動による身体の負担など障がい者が抱える問題を、アクセスコーディネーター、アカンパニストたちがサポート。解決策にはマニュアルがない。その場その場で模索するクリエイティヴな作業でした」



2017年には障がい者の心身パフォーマンス機能の底上げ、トレーニングプラン、エアリアル導入など帰国後に向き合ったパフォーマンスの課題解決と並行して、2021年以降の担い手を育てるためにソーシャルサーカスの研究を開始。貧困、障害、虐待、移民などマイノリティ問題にも取り組み始めます。

栗栖さんは“既存の型/手法にはめる”から“新しい型/手法をつくりだす”ことを“FastからSLOWへの変化”と例えます。
「障がい者が出演するからパラなのではない。障がい者=マイノリティの視点が活かされるからおもしろいのです。そこに誤解が生じている。そうした取り組みが日本にはまだ少ないので、これからの1年で広めていきたいです」

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